1 世界広宣流布を展望して
1-1 世界の宗教人口と将来予測

世界広宣流布への展望に関しては、2000年12月に池田によって発表された、23世紀半ばまで展望した7つの鐘構想しかない。そこでは第2の「7つの鐘」を打ち鳴らす、21世紀の前半の50年では、アジアをはじめ世界の平和の基盤をつくりたいとの構想が述べられているが、現時点で最も経済的な発展が著しいのはアジア地域であり、この地域に平和と安定を築くことは、中東やアフリカよりも可能性が高い。しかも現在最もSGIのメンバーが増加しているのがアジア地域である。その文化的背景としてアジアには仏教的伝統が様々な形で継承され、SGIは特色ある在家仏教として受け入れられているということがある。現在中国ではSGIは公認されていないが、将来中国の宗教政策が変更されれば、人口規模や文化的伝統という観点から、中国のSGI組織が世界最大となり、日本の創価学会は日蓮仏法発祥の地、創価学会発展の地としての歴史的意義は持つだろうが、運動の中心地は中国になる可能性がある。それがいつ生じるのかは、私には予測できないが、蓋然性の高い出来事であると思っている。
さて第2の7つの鐘がなり終わる2050年を展望して、世界広宣流布のために何が必要なのかを考えるのが、創価学会に所属する哲学研究者として長年創価大学で禄を食んできた私の仕事であるとは思うが、想像力の貧困な私には、2050年の世界の状況を予想することなどはできそうにない。とりあえず国連経済社会局(Department of Economic and Social Affairs(DESA))の人口部(Population Division)の「2017年版世界人口予測(World Population Prospects The 2017 Revision)」の記述を参考にして、多少のことを考えてみたい。
 それによると2015年の世界人口は73億8千万人であるが、2050年には97億7千万人に増加する。率にして30%、数にして23億9千万人の増加である。少子高齢化で人口減の日本では実感できない数値であるが、これだけの人口増加を維持するための、食糧・水・エネルギー供給の問題、それと関連したCO2問題をうまく乗り切って行けるのか、科学者ではない私は、不安になるばかりである。その内訳を見ると、人口増加の最も著しい地域は、サブサハラ・アフリカであるが、この地域の人口は9億7千万人から21億7千万人に増加すると予想されている。ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、ウガンダの人口急増が予想されている。次に目立つのは南アジアで18億2千万人から、23億8千万人へと増加する。インドが13億1千万人から16億6千万人、パキスタンが1億9千万人から3億1千万人へと増加する。東南アジアではインドネシアが2億6千万人から3億2千万人へと増加する。先進国では唯一米国が3億2千万人から3億9千万人へと大幅増加すると予想されている。
第2の7つの鐘の目標である「アジアをはじめ世界の平和の基盤をつくってまいりたい」に関連するアジアの人口予測を見ると、44億2千万人から52億6千万人へと増加するが、上述のように、インド、パキスタン、インドネシアは大幅増加するが、中国は14億人から13億6千万人へと微減し、日本は1億3千万人から1億1千万人へと、率にして15%が減少する予測となっている。仏教徒の多い、中国、日本、台湾、タイは減少、韓国、スリランカは横ばい、香港、ミャンマー、ベトナム(日本より人口が多くなる)は増加となっている。
 次に宗教人口の予測をこれに勘案してみよう。2015年4月2日のピュー・リサーチ・センター(The Pew Research Center)発表の「世界諸宗教の未来:人口成長見通し、2010-2050 (The Future of World Religions: Population Growth Projections, 2010-2050 )」によると、様々な統計資料に基づいたそれぞれの宗教の出生率、死亡率、年齢構成、移民、改宗率を基にした予測では、2010年現在では、キリスト教徒21億7千万人、イスラム教徒16億人、無宗教11億3千万人、ヒンドゥ教徒10億3千万人、仏教徒4億9千万人、民族宗教4億人、ユダヤ教徒1千万人であるが、2050年にはキリスト教徒29億2千万人、イスラム教徒27億6千万人、ヒンドゥ教徒13億8千万人、無宗教12億8千万人、仏教徒4億9千万人、民族宗教4億5千万人、ユダヤ教徒2千万人となると予測されている。
 世界人口に占める割合はキリスト教徒が31.4%で変わらず、イスラム教徒が23.2%から29.7%へ増加し、無宗教が16.4%から13.2%、ヒンドゥ教徒が15%から14.9%、仏教徒が7.1%から5.2%、民族宗教が5.9%から4.8%に減少し、ユダヤ教徒が0.2%変わらずと予測されている。この宗教人口予測で示されているのは、イスラム教徒の急増と、無宗教、仏教徒の減少である。これは、実人口において、イスラム教徒の増加率が73%、キリスト教徒35%、ヒンドゥ教徒34%、ユダヤ教徒16%、民族宗教11%、無宗教9%、とそれぞれ増加しているのに、仏教徒のみが-0.3%と減少していることによる。世界人口は2010年現在で約69億人から2050年で93億1千万人へと増加しているなかで(Pewの人口数値は国連の統計とは若干異なる)仏教徒のみが1500万人程度減少すると見られている。
 イスラム教徒、キリスト教徒の増加はサブサハラ・アフリカの人口急増によるものであるし、無宗教の割合の減少は、ヨーロッパ、北アメリカ、中国、日本の少子高齢化によるものであり、仏教徒の減少は主に中国、日本、タイの少子高齢化による。
 また改宗予測としては、過去40年間の平均変動率により、無宗教に関しては、9,700万人が無宗教になり、3,559万人が無宗教から他の宗教へと改宗すると予測されている。改宗による変動を見ると、無宗教が実数の変化で、6,140万人の増加、イスラム教徒、民族宗教が増加、ユダヤ教徒、仏教徒、キリスト教徒が減少となっている。仏教徒は337万人の入信があるが621万人の無宗教、他の宗教への改宗があり、実数で285万人の減少となっている。キリスト教徒は入信が4,006万人に対して、退会が1億611万人となり、実数で6,605万人の減少となっている。改宗に関しては、国によって、制度的に容易な国と困難な国とがあり、キリスト教徒の減少と、無宗教の増加は、信教の自由が保障されたヨーロッパ、北アメリカの国々で生じると予測されている。
 出生率、死亡率、年齢構成、移民などの要素を加味すれば、改宗による宗教変動は地域的には大きいかもしれないが、世界人口から見れば、それほど大きな宗教変動の要因にならない。そして宗教変動の最大の要因は、出生率と年齢構成であると結論づけている。
 移民による宗教変動としては、北アメリカではイスラム教徒が1.4%から2.4%に増加、ヒンドゥ教徒が0.8%から1.3%に増加、仏教徒が1.2%から1.4%に増加する。ヨーロッパではイスラム教徒が8.4%から10.2%に増加、ヒンドゥ教徒が0.2%から0.4%に増加、仏教徒が0.2%から0.4%に増加する。中東から北アフリカ地域では、ヒンドゥ教徒が0.3%から0.6%に増加する。またキリスト教徒は2.9%から3.1%に増加する。
 これらの予測について、この論文では、中国のような人口の多い国で、宗教変動が生じれば、予測に大きな変化が生じることを示唆している。2010年現在中国には、キリスト教徒が6,800万人、無宗教が7億100万人いると見なされている。年齢構成などから、大規模な改宗が生じないとしたら、2050年には中国のキリスト教徒は7,100万人、無宗教は6億6,300万人に変化すると予想されている。中国のキリスト教徒の割合は5.2%であるが、もし日本並みにキリスト教徒が2.4%まで減少すれば、2050年の世界のキリスト教徒の割合は31.4%から30.9%に減少する。逆にキリスト教徒が韓国並みの33.3%に増加すれば、中国のキリスト教徒は4億3,700万人に増加し、世界のキリスト教徒の割合は、35.3%に増加する。
 因みにPew Research Center の2012年12月の The Global Religious Landscapeにより、世界の宗教別の多い国の統計を参考資料として見ておこう。
キリスト教の特徴は全ての大陸に満遍なく拡散していることで、ヨーロッパに5億6千万人、中南米に5億3千万人、サブサハラに5億2千万人、アジア太平洋に2億9千万人、北米に2億7千万人、中東北アフリカに1億3千万人となっている。キリスト教徒の多い国と、その人口比率を見てみると、USAが2億4千万人、78%、ブラジルが1億7千万人、89%、メキシコが1億1千万人、95%、ロシア1億、73%、フィリピン9千万人、93%、ナイジェリア8千万人、49%、中国7千万人、5%の順番になっている。
イスラム教徒はアジア太平洋に9億9千万人、中東北アフリカに3億2千万人、サブサハラに2億5千万人、ヨーロッパに4千万人、北米に300万人、南米に80万人と地域的に偏りがある。イスラム教徒の多い国と、その人口比率を見てみると、インドネシア2億1千万人、87%、インド1億8千万人、14%、パキスタン1億7千万人、96%、バングラデシュ1億4千万人、90%、ナイジェリア8千万人、49%、エジプト8千万人、95%、イラン7千万人、100%、トルコ7千万人、98%である。東南アジアのイスラム国家であるインドネシアが、イスラム教徒が最も多い国であるのは分かるが、ヒンドゥ教徒が多いインドが2番目に多く、その数は、隣国のイスラム国家であるパキスタン、バングラデシュより多いことは注目される。サブサハラの大国であるナイジェリアがキリスト教徒とイスラム教徒がほぼ同数であることも注目される。イスラム国家といえば、中東北アフリカがイメージされるが、信徒数としては、エジプトがようやく第6位に入るように、人数的には東南アジア、南アジアが圧倒的に多い。
次に無宗教を見てみると、アジア太平洋に8億6千万人、ヨーロッパに1億3千万人、北米に6千万人、中南米に5千万人、サブサハラに3千万人、中東北アフリカに200万人となっている。無宗教の多い国とその人口比率を見てみると、中国が7億人、52%、日本が7千万人、57%、USAが5千万人、16%、ベトナム3千万人、30%、ロシア2千万人、16%、韓国2千万人、46%、ドイツ2千万人、25%、以下フランス、28%、北朝鮮、71%、ブラジル、8%、でともに2千万人弱となっている。社会主義国の中国が無宗教の最大の国家だというのは理解しやすいが、社会主義の代表国であったロシアが思ったよりも無宗教は16%と少なく、むしろキリスト教が73%であるのとは対照的である。中国と似ているのは北朝鮮であり、無宗教が71%となっている。日本、韓国という東アジアの資本主義国で無宗教が57%、46%と社会主義国のベトナムの30%よりも高くなっているのは、注目に値すべきことである。欧米の先進国の中では、フランス28%、ドイツ25%が比較的に高いが、USAが16%と低いのは、USAが依然としてキリスト教国家であるということを示している。
次にヒンドゥ教徒を見てみると、アジア太平洋に10億3千万人、99%と集中しており、他の地域は無視できる数字である。ヒンドゥ教徒の多い国と人口比率をみると、インドが9億7千万人、80%、ネパールが2千万人、81%、バングラデシュ、1千万人、9%などである。ヒンドゥ教が、信徒数が多いのにも関わらず、世界三大宗教から除外されているのは、その地域的民族的な偏りのためであると考えられる。
次に仏教を見てみると、アジア太平洋に4億8千万人、99%が集中しており、その点ではヒンドゥ教と似ている。仏教徒の多い国と、人口比率を見てみると、中国が2億4千万人、18%、タイが6千万人、93%、日本が5千万人、36%、ミャンマーが4千万人、80%、スリランカが1千万人、69%、ベトナムが1千万人、16%、カンボジア、韓国が1千万人強、97%、23%、インド1千万人弱、1%である。中国、日本、韓国、ベトナムは無宗教が多い国でもあるが、仏教徒も多い国であり、ともに北伝(マハーヤーナ)仏教の国であることが共通している(なお中国では仏教、道教、イスラム教、プロテスタント、カトリックの5つの宗教が公認されている)。タイ、ミャンマー、スリランカ、カンボジアは人口の大半が仏教徒であるが、上座部(テーラヴァーダ)仏教であるということが共通している。インドは、テーラヴァーダ仏教の逆輸入、マハーヤーナ仏教の布教活動、チベット(ヴァジュラヤーナ)仏教のチベット難民の流入などで、多様な仏教伝統が混在している。
次に民俗宗教を見てみると、アジア太平洋が3億7千万人で、全体の90%である。次いでサブサハラの3千万人、中南米の1千万人と続く。民俗宗教の多い国と人口比率を見ると、中国が2億9千万人、22%、ベトナムが4千万人、45%、台湾が1千万人、44%となる。中国の民俗宗教は道教、儒教と混合して、さまざまな神々を祭る宗教であり、台湾も同様である。ベトナムの民俗宗教(主に道教系)は仏教と混交して、葬儀は儒教式で行うなど、中国の民俗宗教と似た傾向がある。
 次に、バハイ教、道教、ジャイナ教、神道、シーク教、天理教、ゾロアスター教など分類しにくいその他の宗教について見てみると、アジア太平洋に5千万人、全体の89%が集中している。インドにはシーク教、ジャイナ教が合わせて3千万人、人口比率で2%、中国に道教が1千万人弱、1%、日本の神道、天理教が合わせて600万人、5%、台湾の道教が400万人、16%となっている。
最後にユダヤ教を見てみると、北米に600万人、中東北アフリカに560万人、ヨーロッパには140万人などとなっている。ユダヤ教徒の多い国と人口比率を見てみると、USAが570万人、2%、イスラエルが560万人、76%となっており、両国に全体の82%が集中している。
 このような宗教人口の現状と将来予測の中で、世界広宣流布を1,200万人の会員を擁するSGIがどのような目標を掲げて推進するのか、私なりに考察してみたい。