激動の 3月 上旬 編
3月1日(月) 「先生」にも「先生」がいた
こういうホームページを開設しているとよく「なぜ先生になったのか?」と質問される
ことがある。聞かれてもはっきり答えられないでいつも困っている。決して熱心な教育観や
情熱的な熱意だけではないのは当然で(^^;)かと言って学園ドラマ(「夕陽が丘の総理大臣」や
「金八先生」等)の影響というわけでもなく、実はもっと直截的な動機であったりする。
高校時代に習ったT先生の影響だろう。私は数学が好きで国語が不得意、典型的な理系
少年だった。本はそこそこ読んでいたがテストでは60点以上取ったことがなかった。
どういう答えを書いても完璧な○がもらえず、『国語はきちんと答えが出ないから嫌だ。』と
ずっと思っていた。だから高校時代も理系選択だった。ところが高校3年生の時に習った
T先生の授業は別だった。今まで全然理解できなかった国語の内容がとてもよくわかる。
記述の仕方、登場人物の心理、描写の意味、どれをとっても論理的に明快に解説してくれた
のだ。今まで持っていた国語への不信感が一掃されるような明快さだった。当然国語の点数も
上がって『俺ってもしかして国語得意じゃん!』という大きな勘違いが始まったのだ。
でも今考えてみると、そのT先生は別に面白い話をするわけでもなく、ギャグを言うわけ
でもなく、本当に授業内容だけで私を魅了した。こんなに国語って面白いんだと思わせて
くれたのだった。その時から漠然と『先生っていいなぁ。』と思い始めていた。それが
きっかけだろうか。
最近、自分は本当に魅力ある授業をしているのだろうか?と思うことが時々ある。あの
T先生のように生徒に向学心を燃やさせるような授業をしているだろうか。自分がやってみて
同じスタイルでは無理だと悟ったときから、またまた勉強が始まったような気がする。
「先生」にも「先生」がいたんだ。そんな当たり前のことが頭をよぎった。受検生の
入学願書に貼ってある顔写真を見て『この子たちの期待にこたえられる先生であるか?』と
自問していた午後でした。
3月3日(水) 会議は踊るよ
今日は入試の合否判定会議があった。これが結構時間がかかった。確かにある生徒の一生を
左右しかねないものだから、慎重にも慎重、議論にも議論を重ねることが大事だが、それに
しても今日の会議の半分は無意味だった。実は校長の腹の内では合否ライン(ここまで合格
ここから不合格という線)が決まっていたらしい。でも自分の一声で決まると職員が文句を
言うので、一通り意見を出させて、そして最後の鶴の一声というか、水戸黄門の印籠みたいに
「これでどうだ!」といきたかったらしい。ところが途中から雲行きが怪しくなった。
色々な意見が噴出し百家争鳴(?)まとまる気配がなかった。
だいたい校長の考えていた原案というのが不合理なものだったからだ。ラインより下の方の
ものでも合格させたいものがいたり、上の方でも落としたいものがいたからなのだ。
論理的な説明ができればまだしも、地元中学との付き合いでだとか、悪い噂があるからだとか
そんなことではなかなかみんな納得できないのも当然。それでも何とか3時間かけて無事終了。
校長も職員も、10年振り以上の大漁に(失礼!)浮き足だった会議でした。私はずっと
その後の合否通知発送準備や合格掲示板の仕事が遅れることだけが心配でした。やれやれ。
3月4日(木) 合格発表の瞬間
さていよいよ合格発表の日。朝、学校に行くと教頭先生が「O−TEACHER、もう一度
合格掲示板と封筒(合格通知を送るもの)を確認しよう。」と言ってきた。でも昨日から3回も
確認していて、もういい加減大丈夫だと思うのだが、そこは上には弱い私ですから(笑)
「はい。いいですよ。」とふたつ返事。えーっと合格掲示板はこの鍵のかかる書庫に...と
開けて運び出し、封筒は事務室の金庫に...と「あっ、教頭先生、事務室の金庫はまだ事務長が
来ていないんで開けられませんよ。」「そうか。まだ7時20分だもんな。じゃあ、いいや。」
なんだよ...と思いながら合格掲示板を書庫に戻して鍵を閉めた。すると10分後用務員さんが
駆け込んできた。「あのー、誰かアラーム解除前に金庫とか書庫とか開けました?警備会社から
緊急連絡が入ってるんだけど!」あちゃー!教頭先生ーっ!結局私が罪をかぶりました。(--")
とまぁ、そんな具合に教員も浮き足立っている合格発表の日でした。
合格発表は9時ちょうど。8時半を過ぎると中学生が続々集まってきました。掲示係の先生は
合格掲示板を持って待ちかまえている。またこれがいつものごとくフェイントをかけて、一度
掲示すると見せかけて、フックの具合を確認したりする(^^;)おいおい、焦らすなよって感じ。
9時の時報とともに掲示。中学生たちのどよめきが起きる。といっても今時の子たちですから
嬉しいのだろうけど、ガッツポーズはとらないし、もちろん万歳胴上げはやらない(当たり前)
ニヒルに『フフッ、受かっていたか。』と片頬だけ笑ってそそくさと帰っていく。喜び勇んで
公衆電話に駆け寄ったり、合格掲示板に載っている自分の受検番号をカメラで撮ったりはしない。
(俺だけか?)それでも女の子たちは抱き合って喜んだり、嬌声をあげる子も多少いた。
そんな様子をデジカメで押さえておいたので見たい人は合格発表の様子のページでどうぞ。
合格発表といえば、私の高校時代の小心者の友人は、大学受験の合格発表の時、落ちていた
けど、ちょうど新聞社が写真を撮りに来て、つい受かったふりをして両手をあげて喜んでいる
ふりをしてしまった。それが次の日の新聞にちゃっかり載ってしまい、それについて色々な
ところで指摘されたらしい。その極めつけは、浪人して予備校に通っていた時に「どっかで
見たことある人」として有名になったそうだ(笑)
3月5日(金) 卒業式の予行練習にて
いよいよ明日が卒業式。本日は卒業式予行練習の日。入場から始まり、起立、礼、着席の練習に
卒業証書授与、式歌(校歌とかほたるの光など)等が本番の流れに沿って練習された。ところが
全然ちゃんとできなくて何度も途中で止まり、繰り返し練習させられた。だいたい今時の高校生は
きちんと起立すること、きちんとした礼をすること、きちんと座席に座ることすらできない。
「起立!」の声がかかってもだらだらーっとバラバラに立ち、礼も首をちょこっと出すだけ。
おまけに座っているときは足を投げ出していたりして、全然厳粛な感じがしない。唯一おしゃべり
しないだけましというもの。代表で卒業証書をもらう生徒も、右へ礼、正面で一度止まり、今度は
左へ礼、左手出して右手出して証書をもらい、左足から一歩下がり左に抱え、まわれ右して戻る。
こう文章で書くと大変だが、実際はそんなに複雑な動作ではない。でもできない。あっちこっち
きょろきょろしてしまう。校歌に到ってはほとんど声が出てない。明日の卒業式ちゃんとできるの
かしら?(でも教員も不安...呼名する場面で名前を忘れたり、「礼!」というのを忘れたり
している人もいた(笑)やはり生徒は先生の鏡か?)
そんな予行の中、実は私、壇上に上がってPTA会長の役をやらされました。各クラスの代表が
卒業証書をもらいに壇上に上がってくるときに、来賓であるPTA会長(つまり私)におじぎを
する。それに私が黙礼で返す...という仕事でした。壇上で全校生徒職員を見下ろしていると
ちょっと偉くなった気分(笑)そしてその後、来賓祝辞としてPTA会長のお話があった。そこで
仕方なく演壇まで行き「祝辞!....以上祝辞終わり!」なんて大声で言ったりして
全校デビューを果たした(笑)で、初めのうちは上から睥睨して楽しかったんだけど、あまりに
何度もやり直しをしているもので、すっかり飽きてしまった。でも壇上にずーっといなければ
いけないから、当然全校生徒の目にさらされているわけであくび一つできない。そのうち2時間も
過ぎてくるとトイレに行きたくなってもぞもぞしてきた。すると司会が「ほら!ちょこちょこ
動くな!」と言ったものだから『へっ!?』と思っていたら、生徒にだった(^^;)とまぁ、そんな
感じでやっと予行練習が終わった。やれやれ。明日は無事終わるのか...?
3月6日(土) 私の卒業生
たとえ副担任といえども緊張する一日だった。今、自宅でこれを書いていても疲労感が抜けない。
卒業式というと一般の方はどのような想像をするのだろうか。感傷的な雰囲気を思い浮かべる
のだろうか。確かに式の最中はすすり泣く生徒もいて、それなりに雰囲気を出していたが、現実は
とっても大変。朝から山ほどの段取り。まず生徒の服装チェック。この時ばかりとパーマや赤く
染めてくるやつがたまにいる。そいつらを集めて応急処置の黒染めスプレーやドライヤーを使って
直させる。あれほど言ったのにルーズソックスを履いてきた女生徒に、普通の靴下を配布。そして
胸に付けるコサージュ(?)を配って回り、来賓の方や保護者の方の誘導など、卒業式を始める
前までに色々仕事があるのだ。そして卒業式の方はいちおう何事もなく予定通り終了。
(担任の方が緊張気味。)ちなみに去年の自分を思い出すと、生徒を呼名するとき声が震えて
いた(笑)そしてその後クラスへ戻り、通知票を渡し一人一人卒業証書を渡す(式の時は
各クラスの代表だけなもので)そしてそれを入れる筒(通称スッポン!)そして恒例となりつつ
ある、どら焼き(紅白饅頭よりうちの学校では好評!)その後担任からお別れの挨拶。その後は
記念写真の嵐!今日何回シャッターを切ったことか(^^;)そしてその後保護者主催による
講義室での軽い謝恩会。いやー忙しかった。担任の先生ご苦労様。本当にこの開放感は担任で
なければわからない。お疲れさま。
一段落して教務室でぼっとしていた時、とある先生から「O−TEACHER、副担任だから
ちょっと物足りなくて寂しいんじゃない?」と言われた。確かにそんな気もする。やはり
なんだかんだ言っても担任と生徒の絆は強い。いくら手を焼いても最後は自分の生徒が可愛い。
生徒も担任を慕ってくる。そんな様子をフレームに収めながら『この日のためにみんな担任やって
いるんだな。』と思った。確かにこの学年にいたけど、たった一年の付き合いではなかなか
「自分の卒業生だ!」と実感しづらかった。そう思いつつ学校のコンピューターでメールチェック
していると、ひとつの見知らぬ人からのメッセージ。「先日はコンピューター開放講座でお世話に
なりました。ワープロから何とか頑張って自分でコンピューターを買い、やっと接続して、初めての
Eメールを先生に送ります。」以前書いた一般市民向けのボランティアでやった、コンピューター
開放講座を受けた生徒さん(といってもおばさんたち(笑))からのメールだった。でもとても
嬉しかった。あの時ワープロもおぼつかなかった人たちがここまで...(涙)
ここに私のもう一人の卒業生がいた。
3月8日(月) 仕事は続くよ、いつまでだ?
卒業式が終わってホッとしている。やっぱり一大行事だし、3年間の総決算ということもあり
3年生の担任の先生方も年休率が高い。それだけ心身共に疲れ果てたということか。朝の
打ち合わせで、3学年主任からお礼の一言。「土曜日は卒業式にかかわり、色々とありがとう
ございました。何かと問題のある学年でしたが、先生方の協力で無事卒業させられました。
なお、木曜日からお休みをいただいて、学年職員旅行としてグァムの方へ行く予定になって
います。そこでガン・シューティングして今までの憂さを晴らしてきたいと思っています。
どうもありがとうございました。」職員大爆笑、校長苦笑いの挨拶でした。でもその後の
担任たちの会話。「じゃあ、一発撃つたびに卒業式みたいに呼名しますか?」「いや、私は
マシンガンじゃなきゃ気が済まない!」オイオイ!みなさんもちろんブラックジョーク
ですよ(笑)
さてホッとする暇もないのが、3学期めいっぱい忙しい私のいる教務部。1・2年の成績処理、
指導要録の点検、年度末日程・年度当初日程の調整、時間割作成の準備、転任職員のための
準備、新学年のためのクラス分け・名簿作り・・・・とまだまだ仕事は続くのであった。でも
その前に木曜日から日曜日までグァムだーっ!羽を伸ばしてくるぞー!グァムレポートを待て!
3月9日(火) 適材適所
校長室に呼ばれた。来年の校内人事についてだ。希望とは全く違った部署に配置換えを言い
渡された。どこの社会でも人事異動はあるもので、それはそれで納得しているのだが、得てして
学校の場合ムチャが多い。例えば会社なら利益追求のためそれなりの考えで部署再配置を
行うだろうが、学校はそうでない場合が多い。何といってもトップ(校長)が3年で代わるため
長期的な人事ができないのだ。(普通校長は3年で代わる)おまけに今の校長は今年で転勤だが
来年度の校内人事は今の校長がやる。だから事実上いない人が決めた人事のもとで、来年度
一年間仕事をやるのだ。そしてそれもあまりに公平さを欠く場合が多い。今年の場合も、
転勤予定者が異動しなくなったので、すでに空くと見越して考えていた人事が停滞し、また
いるだろうと見越していた人が転勤が決まったので、その穴埋めに苦慮しているらしい。
そのため、この人がここ、その人のところが空いたのでそこへこの人、そしてその穴にこの人..
と、玉突きで人を決めているものだから一貫性がなおさらない。また楽な仕事をずっとやっている
人は結構万年その地位が安泰気味で、大変な人は一役も二役も兼任させられている。これでは
たまったものではない。
そんなわけで来年度の私はコンピューター関係の仕事から手を引くことになりそうだ。確かに
色々大変だったけど、まだ多少知っていたから何とかなった。ところが後任が見えていないのだ。
このままだとコンピューターによってだいぶ校務が能率化されたのだが、また逆戻りする
可能性もある。一体どうなるのだろう。不満たらたらで校長室を出た。そして周りの人に聞いて
みると、同じ教務部の主要スタッフ5人中4人が他の分掌へ配置転換となっていることを聞いて
またまた驚いた。いくら何でも普通の会社だって、例えば営業部の80%がいなくなり、経理や
総務で再編するなんてあるのかなぁ?そんな感じなんですよ。適材適所でやらないと本当にみんな
苦労するのに...。
そんな不満を保険業界に勤める友人に話した。するとこう言われた。「甘い、甘い。だから
公務員はのんきなんだよ。俺の会社なんて3月22日頃に支社にファックスが来て、そこに
辞令が書いてあって即転勤。4月1日付で引き継ぎ転勤しなきゃいけない。おまけにうち
なんかだと全国展開だから、いきなり北海道網走支店とか鹿児島支店とか、そんな感じだよ。
もちろん有無を言わさずにね。家族とか単身赴任とかそんなこと言ってたら、すぐリストラ
されちまう。首になりたくなきゃどこへでも行かざるを得ないのさ。」そんな話を聞いて
考えさせられてしまった。やっぱり公務員って甘いのかな...。