<Bienvenue a Tokyo!> 第11弾
東京へようこそ!

 2008年8月、“軽井沢国際音楽祭2008”に出演の為に来日中のマルク・トゥレネル(マルク・トレネルMarc Trenel)さんにインタビューしました。トゥレネルさんは、パリ管弦楽団首席ファゴット奏者。
このインタビューの半月後の2008年9月14日には、ミュンヘン国際コンクールに優勝!史上初のファゴット部門の第1位となりました。

トゥレネルさんは、リール市音楽院(conservatoire de region de Lille)で学んだ後、パリ国立高等音楽院(CNSM)に入学。1997年にファゴット、室内楽共に満場一致の一等賞を得て卒業し、同音楽院大学院に入学。同音楽院大学院でジルベール・オダン(Gilbert Audin)氏に師事すると同時に、バーゼン音楽院ではセルジオ・アッツォリーニ(Sergio Azzolini)氏に師事されました。1999年、19歳にしてパリ管弦楽団首席ファゴット奏者に就任し、その翌年にはパリ国立高等音楽院教授に就任。“年上の学生さんを指導する20歳の教授の出現”と、話題を呼びました。
そして、2008年9月には、ミュンヘン国際コンクールのファゴット部門第1位となりました。彼の師であるジルベール・オダン氏は第3位、セルジオ・アッツォリーニ氏は第2位でしたので、“出藍の誉れ”ですね。

これまでに、この<Bienvenu a Tokyo>に登場して下さった方は、皆さん、友人としてのおつきあいのある方でしたが、トゥレネルさんとは今回が初対面。友人のパリ管首席ホルン奏者のアンドレ・カザレ(Andre Cazalet)の紹介で連絡を取り、インタビューをお願いしました。
約束の時間に“軽井沢国際音楽祭2008”の会場となっている大賀ホールにうかがって初対面のご挨拶をしてから、私のお気に入りのカフェ“パインズランチョネット”に移動し、ランチを取りながらインタビューさせていただきました。
 席についてメニューを開いたら、日本語だけ。「ご説明しましょうか?」と言ったところ、「ひらがなとカタカナは読めます。」とのお答が返ってきて、驚きました。日本語は、学校に通って勉強されたんだそうです!
 11月初めには、新しいCDが発売されます。文末のCD情報もご覧下さい。

 (“東京へようこそ!”という題のインタビューですが、今回インタビューしたのは、軽井沢です。)


<音楽に関する質問>
野瀬百合子(以下Y): 今日はインタビューの為に時間を取って下さって、ありがとうございます。私、アンドレ(パリ管首席ホルン奏者のアンドレ・カザレ Andre Cazalet)とは95年以来の友人です。95年に日本で行われたインターナショナル・ホルン・フェスティヴァルで出会いましたが、その後、彼は、日本での私の企画に協力して下さっているんです。彼のおかげで、私は沢山のフランス人演奏家に出会っています。例えば、ヴァンサン・リュカ(パリ管首席フルート奏者 Vincent Lucas)。私は、数年間、ヴァンサンの秘書をしていました。
マルク・トゥレネル(以下M)): ヴァンサンの演奏は、僕の演奏が入っているデュティユーのCDに入っています。アレクサンドル(パリ管首席オーボエ奏者のアレクサンドル・ギャテAlexandre Gattet)の演奏も入っています。彼とも知っているんですね?
Y: ええ、前回のパリ管来日公演の時にお会いし、インタビューさせていただきました。
そのデュティユーのCDを出した会社、アンデサンス(Indesens)の社長さんにも、6月にお目に掛かりましたよ。
M: ブノワ(ブノワ・ドー Benout d’Hau)ですね!
Y: そうです。彼とは、今もCDのことで連絡を取り合っていますよ。
今回、トゥレネルさんは、“軽井沢国際音楽祭2008”の為においでになりましたが、軽井沢の印象は如何ですか?
M: 静かで自然が豊かで、良いところですね。
Y: 私も軽井沢は大好きです。
トゥレネルさんは、パリ管(パリ管弦楽団)で演奏されると同時に、パリ国立高等音楽院(CNSM)では先生として指導をしていらっしゃるとうかがっていますが、パリでは、演奏活動と教師業を、どのような割合でされているのですか?
M: 教えているのは、週に6時間です。でも、この10月から1年間、パリ管を休んで、チューリッヒのトーンハレのオケで仕事をすることになっているんですよ。なので、パリ国立高等音楽院(CNSM)の先生も、お休みします。
Y: ええっ、チューリッヒにいらっしゃるんですか!それは、また、どうして???
M: う〜ん、僕は、静かな生活が好きなんです。パリの生活は、めまぐるし過ぎる。僕が生まれたのはドーヴァー海峡の近くで、自然が豊かなところでした。そこで僕は、パリとは全然違う生活をしていたんです。
Y: そうなんですか・・・。ところで、何歳からパリで暮らしていらっしゃるのですか?
M: 15歳からです。人生の半分をパリで暮らしているっていうことになります。で、ちょっと、生活を変えてみようかなって思ったんです。
Y: なるほど・・・。
M: チューリッヒはドイツ語圏だし、僕にとっては大変な冒険なんです!
(意外な展開に当惑した私は、しどろもどろ。チューリッヒのトーンハレの首席ファゴットのオーディションを受け、それに通ったので、1年間トーンハレで演奏するとのことです。)
Y: ということは、秋からはチューリッヒですね?
M: そうです。10月からです。
Y: ご活躍を祈ります!ところで、これまでに、CDは録音されていますか?
M: ヴァンサン・リュカ、アレクサンドル・ギャテの演奏の入っている“アンリ・デュティユーの初期の作品集(Henri Dutilleux: Pages de Jeunesse)”に、Sarabande et Cortege を入れています。ピアノはパスカル・ゴダール(Pascal Godart)。レーベルはアンデサンス(Indesens)です。同じくアンデサンスから、“ファゴットとピアノの為のフランスもの作品集(French Music for Basson and Piano)が出ます。サン=サーンス、ピエルネ、タンスマン等の曲を入れました。これ以外にbis というレーベルから、ギリシャ人作曲家のスカルコッタス(Skalkottas)の作品のCDが出ています。(CD情報は、文末に。)
Y: そうなんですか。新しく出るフランスもの作品集、発売されるのは、いつですか?
M: 11月初めの予定です。
Y: トゥレネルさんは日本語がお上手ですので、日本に良くおいでなのではないかと思い
ますが、これまでに日本には何回位おいでなのでしょうか?
M: 10回位来ています。
Y: そうですか!次に日本にいらっしゃるご予定は?
M: おそらく、来年の夏に来ると思います。
Y: 来年、軽井沢においででしたら、我が家にいらして下さいね!

<ホテルについての質問>
Y: 次に、ホテルに関する質問をさせてください。私は、ホテル関係の雑誌にコラムを連載していたことがあるもので、フランス人音楽家の方々のホテルに関する考え方に、大変興味がありますので。
トゥレネルさんは、年に何日位、ホテルに宿泊されますか?
M: おそらく、2ヶ月位でしょうか。
Y: ホテルに、どのような要素をお望みですか? 静かさ、心地よさ等の要素があると思いますが。
M: 静かなことですねぇ。
Y: 今までに宿泊されたホテルの中で、最も気に入っておられるホテルの名前を挙げていただくことが出来ますか?
M: 名前は分からないのですが、昨年秋のパリ管のアジアツアーの時に泊まった上海のホテル、良かったですよ。真新しくて、とてもきれいでした。
Y: ところで、日本のホテルの特徴は何でしょうか?
M: まずは、朝食。日本の伝統的な食事が食べられること。僕は、日本料理が大好きなんですよ!それから、家具類のサイズですね。大体の場合、僕には小さすぎるんです・・・。
Y: トゥレネルさん、背の高さは何センチですか? 
M: 185センチから190センチの間です。
Y: それじゃ、家具を小さく感じられるのは当然ですね!
M: 「ロスト・イン・トラスレーション(Lost In Translation)」っていう映画、知ってますか?
Y: 興味はあったんですが、見損ねました。日本に来たフランス人のお話でしたっけ?
M: いや、フランス人じゃなくてアメリカ人です。サントリーウイスキーのコマーシャルの仕事で来日した俳優の話なんですが、家具が小さくて、ベッドが低くてっていうところが、とっても面白い。
Y: 確か有名な人が監督した映画じゃなかったでしょうか?
M:監督は、有名なフランシス・コッポラ(Francis Coppola)の娘のソフィア・コッポラ(Sofia Coppola)。面白い作品ですよ!
今度、見てみます!
M: これは、ホテルの特徴じゃないけれど、以前、パリ管の演奏旅行で日本に来た時に地震があって、部屋がゆらゆら揺れました。面白い体験でした。
Y: 怖くなかったんですか?
M: う〜ん、怖くはなかったです。
Y: そういえばパリ管来日中に、結構大きな地震があった時がありますね。アンドレ(アンドレ・カザレ)と地震の話をした記憶があります。

<その他の質問>
Y: ご家族についてお訊きしてもよろしいですか?
M: 両親は幼稚園の教師をしています。父はアマチュアのクラリネット奏者で、オケでも演奏しています。ソルフェージュの先生もしているんですよ。姉はクラリネット奏者で、ロワール管弦楽団の首席クラリネット奏者です。
Y: 今年の夏休みは、どんな風に過ごされましたか?
M: フランスでは、両親の住むドーヴァー海峡の近くのカレ(Pas de Calais)で数日を          
  過ごし、フェスティヴァルやオーケストラの講習にも行きました。日本でも、軽井沢に来る前に旅行しましたよ。
Y: トゥレネルさんは、日本料理がお好きのようですが、何でも召し上がれますか?例えば、納豆。これは苦手な方が多いですが。
M: 僕は、納豆も梅干しも大丈夫ですよ。
Y: そうですか。日本人でも、納豆は嫌いな方はいらっしゃいますので、トゥレネルさんは、日本人より日本人的かもしれませんね
M: でも、ただ1つだけダメなものがあります。それは、軟骨。焼き鳥の時に出てくるでしょ?あれです。
Y: 軟骨ですか!ちょっと意外ですね。
M: それから、ダメそうなのは、魚の目玉。試したことはないけれど・・・。
Y: う〜ん、私も試したことはありません。半分以上の日本人は、食べたことがないと思いますよ。
ところで、トゥレネルさんは、日本文化のどういった部分にご興味を持たれていますか?
M: いろいろな物に興味があります。まず、日本庭園。音楽では、J-pop、日本の伝統音
  楽。そして、演歌も面白いですね!こんな感じのところが。(と、歌ってみせて下さる。)
Y: えっ、演歌ですか〜!
(意外な展開に、またもドギマギする私です・・・。)
M: そうです。とっても面白いですよ。それから、日本に来ると、クラシック音楽の番組をテレビでやっているのに驚かされます。フランスには無いですから。
Y: フランスには、クラシック専門のラジオチャンネルがあると聞いていますが、テレビではクラシック音楽の番組、やらないんですか?
M: ないですね。いつだったか、日本で指揮者の佐渡裕のマスタークラスをテレビで放映していて、ビックリしましたよ!
その他に興味があることというと、文学です。村上っていう作家が2人いますよね。
Y: 村上春樹と村上龍ですね?
M: そうそう。村上春樹の作品に興味を惹かれます。村上龍も良いですね。それから、日本のアニメも好きですよ。え〜と、“Chihiro”の出てくるアニメの作家、彼の作品、大好きです。
Y: ・・・(フランス人はHの発音が苦手なので、“チヒロ”でなく“チィロ”と聞こえます。それで、私は「NHK教育テレビの“リトル・チャロ”かな?」っと思ったのです。)それ、小犬のアニメですか?
M: いや、犬じゃなくて・・・。作者は、宮崎という人です。
Y: あ〜あ、宮崎駿ですね?(Chihiro =千尋に、やっと気付きました。)“Chihiro”の出てくるアニメは、“千と千尋”ですね?
M: そうです、そうです。他にも沢山の作品があるけれど、みんな好きです。音楽も良いですね。
Y: 音楽は、久石譲という作曲家が作っているんですよ。
M: そうなんですか。“千と千尋”の音楽は、西洋的な要素とアジア的な要素が絡み合っていて、とても魅力的です。楽器も、日本の楽器を使っているんじゃないでしょうか。
Y: 宮崎駿の最新作、“ポニョ”はご覧になりましたか?面白いと評判ですが。
M: まだ見ていません。
Y: フランスでは、まだ公開されていないと思いますので、日本で見ていらっしゃったら如何ですか?
M: いやあ・・・、日本語で見ると字幕(フランス語)が無いから、僕には良く分からないと思います。
Y: ああ、なるほど。私がフランスで映画を見るのと同じことですね。
M: ヨーロッパで公開されたら見に行きますよ。
Y: その方が良いかもしれませんね。良く分からないのは、ストレスですから。
今日は、ありがとうございました。来年お目にかかるのを楽しみにしています。

 自然が大好きというトゥレネルさん、小雨の軽井沢の景色を愛でていらっしゃいました。
インタビューの時には、ミュンヘン国際コンクールを受けるというお話はなさらなかったので、アンドレ・カザレから「マルクがミュンヘン国際コンクールで第1位を取ったよ!」というメールが来た時には、ビックリしました。「ミュンヘン・コンクール優勝、おめでとう!」という私のメールに、ほんの数分で返ってきた彼のお返事メールには、嬉しさが滲んでいました。
お話をした時には“心優しい青年”というイメージの彼でしたが、ミュンヘン国際コン
クールのサイトで見た(聴いた)演奏の迫力は凄いものでした。あの優しさと演奏の迫力の落差は一体何なんだろう?
その謎を解く為にも、彼の新CDが発売されたら、じっくり聴きたいと思っています。(新CDは未だ発売されていませんが、アンデサンス(Indesens)のサイトに行くと試聴出来ます!)

*CD情報

“アンリ・デュティユーの初期の作品集(Henri Dutilleux: Pages de Jeunesse)”
トゥレネルさんの演奏曲目:Sarabande et Cortege
ピアノ:パスカル・ゴダール(Pascal Godart)
レーベル:アンデサンス(Indesens)
www.indesens.fr

これから発売されます。
  ↓
“ファゴットとピアノの為のフランスもの作品集(French Music for Basson and
Piano)
サン=サーンス、ピエルネ、タンスマン等の曲
ピアノ:パスカル・ゴダール(Pascal Godart)
レーベル:アンデサンス(Indesens)
www.indesens.fr

“スカルコッタス 室内楽曲集”(ギリシャ人作曲家のスカルコッタス(Skalkottas
の室内楽を集めたCD)
トゥレネルさんの演奏曲目:Sonate concertante
レーベル:bis

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