フルート協奏曲 ト長調(テレマン)
エマニュエル・パユは世界中で人気のフルーティスト。「日経ウーマン」にクラシック界のビジュアル系貴公子として紹介された彼は、昨年秋、ベルリン・バロック・ゾリステンと共に来日していた。 大阪での彼等の公演と、夫がホルン奏者を務める読売日本交響楽団(読響)の大阪公演が重なった十二月一日、私は夫と大阪に行き、噂高いザ・リッツ・カールトン大阪のクラブフロアに泊まった。ホテルというより領主の館といった趣、ちょっと小振りなフロントに落ち着いた雰囲気が漂う。曲がりながら続く廊下がプライベートな温もりを醸し出し、快適な滞在への期待を高めていく。
ラウンジで眺めと共に美味しい食事を楽しんだ後は、メル友のSさんとの約束まで部屋でくつろいだ。彼女はパユを、私は読響を聴く。そんな私達に許された時間は僅かだったが、ホテル・ニューオータニのカフェでカプチーノが冷めるのも忘れて語り合った。Sさんとパユの話をした後に聴いた読響の演奏会、自然にフルートに目が行き、耳が行き、同じ大阪でのパユの演奏会のことが思われた。
帰京してパユと会った。約束の時間にオペラシティー楽屋口に行くと、彼は革ジャンにリュックというラフないでたちでやってきた。パリ以来一ヶ月半振りの再会だが、楽屋での彼はいつもと変わらぬ快活で冗談好きな青年だった。しかし、ステージに現れた彼は大スター、目を見張るばかりの華やかさと貫禄を備えている。彼の吹くテレマンのフルート協奏曲ト長調、その弦とフルートの織りなす典雅な響きは、私をバロックの世界にタイムスリップさせた。パユはまるで貴族の若者のよう、美しい姿と凛とした眼差しに暫し見惚れた。
サイン会の後、私に向けた笑顔はスターの顔だったが、友人への伝言を頼んだ途端、舞台の残像が掻き消えた。「来週はパリ。」、目と唇に笑みが溢れた。
ザ・リッツ・カールトン大阪 06-6343-7000
ホテル・ニューオータニ大阪 06-6941-1111
野瀬 百合子(コンサートオーガナイザー)
コンセール・パリ・トーキョウ主宰。東京藝術大学卒業後渡仏。九
七年より日仏音楽交流の為の演奏会を企画。パユは十月にル・サー
ジュとのデュオ及びベルリンフィル日本公演の為に来日。音楽ファ
ン必見の公演である。