旅行記 <パリの音楽風景 2003年秋>
10月22日から10月28日までパリに行った。
パリに行く事を知らせたら、コンセール・パリ・トーキョウで演奏した友人達、
これから何かやろうと話している友人達から、「それじゃ、会おうよ!」という連絡が続々入った。
彼等はフランスで活躍中の音楽家達、忙しいにも拘わらず、
レッスンや練習を見せてくれたり、自宅に招いてくれたりと、私の為に時間を割いて会ってくれた。
音楽と、音楽家の友人との会話で満たされた楽しく実り豊かな旅だった。
滞在中に聴いたコンサートや、見学したレッスンや練習の印象をまとめてみた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 1、<エリック・ル・サージュ ピアノリサイタル> 2、<パリ国立高等音楽院(CNSM)のレッスン見学> アンドレ・カザレ(パリ管首席ホルン奏者)のクラス 3、<アンサンブルの練習見学> バルトーク:2台のピアノと打楽器の為のソナタ 4、<パリ管室内楽シリーズ・コンサート> 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 |
10月23日(木)午後8時より サル・ガヴォ
パリで迎えた最初の朝は雨。がっかりしたが、午後には雨が上がった。
18:30、約束通りに留学生のRちゃんとSさんがホテルロビーに来てくれた。
一緒にお茶を飲んだ後、サル・ガヴォのル・サージュのリサイタルに行った。
リサイタルは、シューベルトの Fantasie Wanderer D 760で始まり、
お得意のシューマンの Humoresque の後、休憩となった。
私達は、ここまでは予約してあった2階左側の席で聴いた。
手は良く見えるけれど、少し舞台に近すぎる気がして、後半は3階正面に移った。
後半は、CRUMB の 7 pieces de Noel と、シューマンの Davidsbundlertantze、
そして、アンコールは Davidsbundlertantze の中のワルツだった。(CRUMB以外は暗譜)
私は、ついつい現代曲を敬遠してしまうが、CRUMB の 7 pieces de Noel、これには感激。
とても素敵だった。この曲は譜面を見ての演奏だったが、
譜面は譜面台に立てず、ピアノの中に置いていた。
ピアノの弦をハープの弦の様に扱ってある部分があり、
爪で弾いたり、グリッサンド風に爪を滑らせたりして音を出していたが、
大変美しい音で、ピアノという楽器の可能性の拡がりに驚いた。
彼が得意とするシューマン2曲は、どちらも素晴らしかったが、
私は個人的に、Davidsbundlertantze との再会が、とても嬉しかった。
この曲は、彼が、一昨年秋のコンセール・パリ・トーキョウ主催のコンサートで
弾いた曲なので、その時の事を思い出しながら聴いた。 オイゼビウス系の曲のしっとり感が増し、
一昨年より一層熟成した演奏だった。
自然な音楽の流れ、ごまかしのないテクニック、素晴らしいコンサートだった。
このコンサートに、ル・サージュと共演を重ねている
ベルリンフィル首席フルート奏者のエマニュエル・パユが来ていた。
入口で会ったので、挨拶したところ、彼は、"Bonsoir, Yuriko!" と言った!
会う筈のないパリで会ったというのに、私の名前を思い出すとは、すごい記憶力だ。
終演後、ル・サージュに挨拶して帰るところに、パユが、休憩時間に階段で足を挫いてしまった
女性の肩を支えてやってきた。
知り合いなのだろうけれど、「これだったら、楽でしょう!」と言いながら
肩を貸す彼の飾らぬ好青年振りが、とても爽やかだった。
帰りに、階段を下りながら話をしたが、
パユは「もうすぐ日本に行くよ。」と嬉しそうに言っていた。
10月24日(金)
アンドレ・カザレ(パリ管首席ホルン奏者)のクラス
この朝、ミシュランさん宅へ引っ越し、
ミシュラン夫妻とは二年半振りの再会だった。
荷物を箪笥に片づけた後、メトロでパリ国立高等音楽院(CNSM)へ。
CNSMの入口が、以前と行った時と違っていたので、
建物の周りをぐるぐる回ってしまった。
前日、パリ管首席ホルン奏者のカザレから、
「13時頃にいらっしゃい。お昼を一緒にしましょう。
もし、少し前に来られれば、いつものようにレッスンを見て下さい。」
という電話があったので、12時頃を目指して彼の教室を訪ねた。
彼はピアノを弾きながら、生徒さんにレッスンしていた。
ツボを心得た、実に的確な伴奏にはびっくりしてしまった。
私が入っていった時に受講していた生徒さんのレッスンが終わった後、
指名されて立ち上がったのは、
近々、トゥールーズキャピトル国立管弦楽団のオーディションを受けるという生徒さん。
彼はモーツァルトのコンチェルトを吹いた。
伝統的に、管楽器のレッスンは、
クラスの生徒さん達の前でのレッスンだというが、
この時は私も聴いていたし、卒業生も1人カザレに会いに来ていた。
見知らぬ私や、オケプレイヤーの先輩の前でのレッスンは、
オーディションの良い練習になるとカザレは考え、
彼を指名したのだろうと思った。
この翌日は、フランス国立フィルの首席奏者オーディションを受ける生徒さん達に
レッスンをするとカザレが言っていた。
カザレの昼休みは約一時間、
中華を食べながらの会話の時間は、あっという間に過ぎた。
昼食後、パリ国立高等音楽院に戻り、
カザレと一緒にて廊下を歩いていたら、
作曲家の棚田文紀さんに出会った。
いきがかり上、棚田さんともフランス語で話す事となり、
奇妙な気分だった。
カザレに案内されて、ル・サージュの教室に行き、
レッスンを見学した。
彼は、友人の代理でミッシェル・ベロフのアシスタントを務めているという。
丁寧で、良いレッスンだったが、
時差の関係で眠くなってしまい、30分で退室した。
レッスンを聴くに相応しい集中力がある時に、
是非もう一度見学したいと思っっている。
10月25日(土)午後2時 モガドール劇場
2時過ぎからのアンサンブルの練習を見せて貰った。
翌日の本番の為の練習で、
曲目は、バルトークの「2台のピアノと打楽器の為のソナタ」。
ピアノは、ドゥニ・パスカルとエリック・ル・サージュ、
打楽器はパリ管の2人のティンパニ首席の
フレデリック・マカレズとエリック・サミュ。
少々眠いこの時間帯は、
アンサンブルの練習見学にピッタリだった。
誰からも話しかけられることがないので、
すっかりリラックスして聴いた。
打楽器のサミュとは、彼がリヨンのオケに居る時からの友達。
パリ管の日本公演以来、2年振りの再会だった。
10月26日(日)午前11時より モガドール劇場
この日から冬時間(これで日本と8時間差に戻る)、
朝起きて、時計の針を直す。
10:45にモガドール劇場へ。
M子ちゃんと待ち合わせて入り、2階席に陣取る。
パリ管室内楽シリーズの一環であるこのコンサートは、
国際マリンバコンクールとも連携した催しだったので、
打楽器の入る室内楽が集められていた。
マリンバのデュオ、沢山の打楽器とピアノのデュオ、
コミカルな小太鼓のデュオ等が続き、
最後がバルトークの「2台のピアノと打楽器の為のソナタ」だった。
リズムが良くて当たり前の2人の打楽器奏者を相手に、
それ以上と思える程の冴えを見せる2人のピアニスト、
そのダイナミックさに舌を巻いた。
ピアノという楽器の打楽器寄り部分の魅力を再認識させられた。
結局、パリ滞在中にル・サージュ演奏を2回聴いた。
リサイタルでは静の面が、バルトークでは動の面がと、
それぞれ異なる面が強調されていたが、どちらも魅力溢れる演奏だった。
2004年1月5日 野瀬百合子
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