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「あ、三日月」
 冬の冴え冴えとした夜空に浮かぶ細い月。
 途端にほぉと現れた白い息に、有栖は小さく肩を竦めてコートの前を合わせた。
 
−−−−−木枯らし途絶えて 冴ゆる空より
       地上に降りしく くすしき光よ・・・・・

 不意に思い出す歌。
 シンと冷える空気。
 こんな風にひどく孤独な空気を纏っている人間を知っている、と有栖は思う。
「・・・・・・・・・・・・・」
 脳裏に浮かんだ横顔。
 けれど、勿論一人にはさせないとすぐに思って小さく笑う。
 再びフワリと闇の中に浮かんで消えた白い息。
 一緒にいたい。
 ずっと、ずっと一緒にいたい。
 目の前に見えてきた“彼”の下宿。
 名前を呼べばきっと自分にだけ見せてくれる笑みを向けてくれる筈だ。
 そうして“彼”にしか呼べない色で名前を呼ぶのだ。
『アリス』
「・・・・・・・・・・っ・・・」
 途端に会いたい気持ちが押し寄せてきて、有栖は足を速めた。
 零れる白い息。早くなる鼓動。
 あと少し、もう少し・・・・。
 そしてその瞬間−−−−。
「!」
 見上げた2階の窓に映った姿に有栖は思わずその名前を口にした。
「*********!!」
 カラリと開いた窓。
「アリス」
 白い細い月の下、“彼”が彼にしか呼べない声で、名前を呼んだ。

エンド



サイト2周年記念。学生編の二人で読むか、作家編の二人で読むかは、貴女にお任せします。
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