お気に召すまま2

「う・・うそ・・ゃ!」
「何が嘘なんだよ。お前が言ったんだろう?それでどうするんだ?」
「や・・・そんなん・・」
「ほら、言わなきゃ判らないぜ?何てったってお前が自分の言う通りにしてくれって言ったんだから」
「・・・・・・・・・・」
 突きつけられた選択肢を、半強制的に選ばせられてやってきた寝室。
 シャワーを浴びてからと言うと「却下」と返されて、「俺の言う通りなんやろ」と反撃をすると渋い顔をしながらも「判ったよ」と手を放された。
 だからその時点では今日はついているかもしれないと思ったのだ。
 あんな風に試合が負けて、ついているも何もないと思うのだが、それでも何でもこの時点では有栖はそう思ったのだ。
 自分の選択は間違いがなかった。
 これで火村の好きなようにされていたらどうなってしまったか判らない。
 それはシャワー一つ考えてもそうだ。そちらの選択にしていたら、今頃はベッドの中で泣きを見ていることは必至だ。
 だから・・・。シャワーを浴びて、ついでに火村にもシャワーを浴びさせて、これはもう賭けに負けたのだからベッドに入って、口づけて、肌を合わせて・・・・。
 そうここまでは良かった。
 というか普通だった。または、いつもと変わりがなかった。
 だがしかし、火村はやっぱり火村だったのだ。
 口づけられて、指と、そして舌とで肌を辿られ、熱くなったそこさえも口に含まれて耐えきれなくなったその瞬間、男ならばどれほどの苦痛か判っているだろうその根本を押さえ、信じられない気持ちで顔を上げた有栖に向かって火村はニヤリと嗤って口を開いたのだ。

『さて、ここからが本番だ。どうする?アリス。何でも言う通りにしてやるぜ?』

 勿論、そんな状態で有栖に何かが言える筈がない。
 というよりも、普通の状態だって口にはしないだろうそれを、賭けを逆手にとって言えと言うわけだ。
「アリス。俺はどうすればいいんだ?」
 ひどく楽しげにそう言いながら、火村はふぅと耳元に息を吐いた。
「!」
 それだけでビクリと震えた身体に、次の瞬間、有栖は赤い顔を歪ませる。
「いやや・・火村・・」
「何が?」
「何・・あ・・もう・・」
「もう、何をしてほしいんだ?お前が自分の言う通りにしろって選んだんだろう?だからさっきからなんでもしてやるって言ってるじゃねぇか。ほら、どうするんだ?このままでいるか?」
 根本を押さえたまま、すっかり勃ちあがっているものを指でピンと弾かれて、有栖は苦しげな声を出して身体を捻る。
「アリス」
「いやや・・」
「何が?」
「こんなん・・いや・・」
「言わなきゃ何が嫌なのか判らない」
「もう・・・」
「もう?」
「火村・・」
 泣き出しそうに顔を歪めるとそんな顔をしても無駄だと囁きながら火村は額に口づけを落とす。
「ん・・や・・・あ・・」
 身体がドクドクと脈打つような感覚に、汗が噴き出す。
 早くどうにかして欲しい。
「・・・指・・・外して・・」
 ようやくそれだけを口にすると有栖はフイと赤い顔を横に向けた。
「どこの?」
「!!」
すぐさま聞き返された言葉に有栖は一瞬言葉を失って、次に口惜しげに目元を歪ませる。
「・・・・あそこの・・」
「あそこって?」
「火村!」
「言えよ。何でもしてやるって言ってるだろう?」
 言いながらユルリと軽く上下に指を動かされて有栖は声を上げた。
 どうやら火村は賭けを盾にして徹底して言わせるつもりなのだ。
「指・・押さえてる指を外して・・・。これ・・」
 言う代わりにそっと火村の指に自分の指を添えるとくぐもった笑い声が聞こえた。
「外すだけでいいのか?」
 どうやら第一関門はクリアーできたらしい。けれどすぐにやってくる次の課題。
「・・・・・・・・・・」
「アリス?」
「・・あ・・・」
「外して、どうするんだ?」
 意地悪く追い上げてゆくように耳元で囁く声。
「・・っ・・・ん・・!・・い・・・いきたい」
 顔から火が出る。そんな気がしたが勿論火村がそれで納得するわけはないのだ。
「どうやって?」
「・・・・・・」
「アリス?」
「そんなん・・・・」
 ふたたびジワリと涙が滲む。
 身体の中に籠もっている熱を吐き出したい。男にならばそれは判りすぎる程判る筈だ。それなのに。
「火村・・」
「・・・仕方ねぇな。手がいいか、口がいいかにまけといてやるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 それはやっぱりそういう意味なのだろうか。
「・・どっちでもいいから・・早く・・して・・」
 それはある意味、有栖にとって精一杯の言葉だった。
 けれど涙で歪む視界の中で火村はひどく綺麗な笑みを浮かべて首を振る。
「言えよ。口がいい?手がいい?」
「・・・・・・・あ・・・」
 滲んだ涙がポロリとこめかみを伝って流れ落ちた。
「このままでいるか?」
「いや・・嫌や」
「達きたいだろう?」
「達き・・たい・・!」
「なら言えよ。口で達かせてほしいのか?手の方がいいのか?」
 言いながらも頬に、耳元に、額に落ちる口づけに神経がおかしくなって行く、と有栖は思った。
「口・・でして・・・」
「・・・いいぜ」
「!ああ・・」
 含まれた感覚に吐息が漏れた。
「は・あ・・・あん・・・ん・・・・火村・・・あ・やぁ!!」
 そうして、いっそあっけないほどの解放に息を整える間もなく、開かれたままの足の間、おそらく先刻からの先走りで濡れていたのだろうその奥に長い指が突き立てられて、動かされる。
「あ!あん!い・・・あ・・・」
 勃ったまま長く抑えられていた為か一度の放出だけでは収まらず、後ろの刺激ですぐに堅くなってきた自身に有栖は再び泣き出したい気持ちになった。
「こっちにも欲しいだろう?」
「・・・・・っ・・」
「素直になった方がいいぜ?アリス」
「・・・・っ・・あ・・・」
 抜かれた指に漏れ落ちる声。
「入れて欲しい?」
「・・・・・・・・」
「なら、指だけで達ってみるか?」
「嫌や!」
 言った途端再び指で探られて有栖は慌てて声を上げていた。
 以前それはやられた事があった。この状態でそんな事をされたら気が狂ってしまうかもしれない。
「なら、どうする?」
「・・・・い・・・入れて・・・」
「何を?」
「!!・・・」
「嫌・・・や・・・」
「嫌なのか?」
「もう・・・・嫌や・・・・こんなん・・・」
 ボロボロと涙が流れ落ちた。
 ヒクリと鳴った喉に流れた涙が逆流してむせる。
「・・・ったく・・・・。お前が限界なら俺だって同じなんだよ」
 溜め息混じりの声と共に手を引かれた。
 何がどうなるのか、考える間もなく、触れさせられた火村の熱さに驚いて慌てて引いた腕をガッシリと押さえつけられる。
「火村!」
「これが欲しいだろう?」
「!!」
「言えよ」
 重なる視線。
 更に赤くなっているだろう顔は、きっと先刻の涙でグチャグチャだろう。
「・・・欲しい」
 言うが早いか、抜かれた指の代わりに押し当てられた熱。
「ああっ!」
 反射的に逃げる腰を掴まれて置くまで入り込んでくる熱に一瞬だけとまっていた涙が溢れ出す。
「アリス・・・」
「あ・・は・・・・あ・・・」
「動いていいか?」
「!!」
 もしかして賭けのそれはまだ続いているのだろうか。
 ぼんやりしてくる意識の中で有栖はそんな事を考えた。
「・・・・ん・・・動いて・・・」
 言うと動き出す火村に揺さぶられながら、切りもなく漏れ落ちる自分のものとは思えない甘い声。
「・・・いいか?」
「あ・・いい・・」
「ここだろ?」
「ん・・そこ・・・・!・・あ・ん!」
「もっと?」
「・・もっと・・・」
 望まれるままに、同じ言葉を繰り返しながら有栖はその背中に腕を回して薄く目を開けた。
 重なる視線に、次いで重なってきた唇。
 そして・・・・。
「全部、言ってみな・・アリス」
「あ・・ふ・・・・あ・・・・・」
「こんなにまけてやったんだ、最後くらいちゃんと言えよ」
 どこをまけて貰ったのか。
 もしかして言葉を教えてやったとでも言いたいのだろうか。
 でも、だけど・・・・・。
「アリス・・・」
「は・・ぁ・・・す・・好き・・好きや・・・火村・・」
「!!」
 瞬間、奥でドクンと火村が弾けた。そうしてその熱に煽られるように、有栖も又自分の熱を放っていた。


「もう絶対に賭けなんかせぇへん!」
 手を動かすことも億劫で、結局シャワーから着替えまでの後始末を半ば強制的に火村にされた後、シーツを替えたベッドの上で有栖はもう何度口にしたか判らないその言葉を口にした。
「良かっただろう?」
「ふざけるな!アホ!」
 真っ赤な顔で怒鳴る恋人。
 あの後、もう1ラウンド付き合わされて、有栖は久々に意識を手放す羽目になった。
 だから、所謂『後始末』も記憶が曖昧で、それがまた、情けなく、やりきれないのだ。
 いつの間に取りだしたのか、カチリと点けられたキャメルに有栖は眉を寄せた。
「寝煙草厳禁や!」
「まだ寝てねぇよ」
「ベッドで吸うなって事や!」
 怒鳴る有栖にどこ吹く風で火村は白い煙をゆっくりと吐き出した。そして・・・。
「まさか、ああくるとは思わなかったよなぁ・・」
「はあ?」
「賭けには勝ったけど、やっぱりお前には勝てねぇな」
「何言うてるんや?」
「さてね」
 ユラリと立ちのぼる紫煙。
 そうして次の瞬間、火村はひどくひどく幸せそうに笑いながら明日の朝食のメニューを尋ねてきたのだった。

おしまい・・・



あははははは・・・・。ごめんなさい。やっぱり何か違うって言うか、鬼畜もどきになっちゃったって言うか、きっぱり外したって言うか・・・・・。
やっぱりね、Hは向かないんだよきっと・・・・。リクエストして貰ってお待たせした割に・・・・スマンです。