今 日 は こ ん な 感 じ
「さっさとくっついちゃえばいいんですよ」
飲み屋のカウンターに並んでの会話なら何のことだかすぐにピンと来ただろうが、今は戦闘終盤で、悟浄は死に物狂いの敵に思いっきり噛みつかれたところだった。首を叩き切っても頑として腕から離れない執念深い生首と「うわっ気持ち悪っ!夢に出そう」とか言いながら格闘している最中に「くっついちゃえばいい」はないもんだ。
「何、なんか言った!?」
「くっついちゃえばいいんです」
「誰がナニと!」
「貴方が僕と」
悟浄は唖然として八戒のほうを振り向いたが、悟空に鉄拳をくらい三蔵にぶち抜かれた敵がふたりの間を飛んだり舞ったりしていた為に顔がまともに見えるまで10秒はかかった。血飛沫や砂埃が落ち着いたところで、悟浄はようやく声を出した。
「いいけど何で?」
八戒はポンポンと服の埃を払いながら近づいてきて、まだ悟浄の腕にぶら下がっていた生首を持ち上げると「ガコン」と顎の骨を砕いて外した。ほっとする間もなく、地面に落下したそれを踵で踏み潰そうとした八戒に仰天して、悟浄は大慌てで止めた。
「わあ、やめやめ、やりすぎ!いくらクズ妖怪でも死んだら仏だぜ!?」
「抹香くさいこと言わないでくださいよ。誰かさんじゃあるまいし」
悟浄は後ろから羽交い締めにしていた腕をぱっと離した。
「分かった。許す。頭蓋骨叩き割って脳髄啜るなり磨き上げて燭台にするなり好きにしろ」
「もういいです」
不意に投げ出すように言うと、八戒は高台に止めたジープのそばで待っているふたりの方に、スタスタ歩き出した。
「待てこら。話は終わりか?」
「何の話です」
「俺とおまえがくっつく話よ」
「ああ」
八戒は急に立ち止まり、勢い余って2,3歩前に出た悟浄の服の裾を掴んだ。
「貴方、三蔵に告ったでしょう」
「人の服で手ぇ拭くな」
「振られた場合、如何に気まずくなるかシュミレーションしなかったんですか」
「俺は別に気まずくねえけど。期待してなかったし」
「三蔵はあれで罪悪感に苛まれてる訳ですよ。僕も悟空も気を使っちゃって大変です」
「そう?」
「お目出度い人ですね」
悟浄はチラリと丘の上に目をやった。途中で立ち止まったままなかなか動かないふたりに業を煮やした三蔵と悟空は、ジープに乗り込み何やら楽しげに話し込んでいる。
「…普通じゃん」
「僕らがくっつけば三蔵大好きな悟空も幸せ、三蔵も一安心、貴方も僕のような非の打ち所のないパートナーを得て大ラッキー、僕ひとりが我慢すれば四方八方丸く収まるんです。…じっとしててくださいね」
八戒が腕の傷を治療してくれる間、悟浄は何とか三蔵に夢中だった時のテンションを思い出そうとしたが、うまくいかなかった。好きというより気にくわなすぎて気になって、つい告白めいたことを言ってしまったのが1ヶ月ほど前。悟浄時間にしてみれば大昔だ。三蔵は絶句した挙げ句、こっちがびっくりするくらい大真面目にゴメンナサイをしてきた。確か「あー、いーって。変なこと言ったな、悪ぃ悪い」とか…言って…それで綺麗さっぱり済んだんじゃなかったっけ。
「はい、終わり」
「あのよ」
「はい」
「おまえが我慢しなきゃ解決しないような問題でもねえよな」
八戒はしばらく悟浄の顔をまじまじ見ていたが、やがて微笑を浮かべた。
「我慢って言ったのは嘘ですよ」
「我慢とまでいかなくても、何もわざわざ三蔵のためにおまえが動いてやるこたねえよ」
塞がったばかりの傷の跡を撫でながら、悟浄は坂を早足で上がり始めた。
「…貴方、くっついてもいいけどって言いませんでした?」
「別にいいけど何もそんな必要ねえだろ今更。あれだろ?三蔵に、俺はもうおまえのことが好きでもなんでもねえから気にすんなって言やあいいんだろ?」
「悟浄」
「ああ、分かった。ちゃんと悟空にも頑張れ〜って言っとく」
「悟浄」
「何だよ、しつけえな。気ぃ使わせて悪かったって」
「わざとでしょう」
「わざとだよ。分かってるからもう黙れ」
悟浄は振り向いて、ちょっと笑った。
「生首に妬けた?」
「おっせ〜よ二人とも!腹減った〜早く行こ〜」
悟空に急かされていつもと同じように運転席に座った八戒は、エンジンをかけるのに3回失敗した。
fin
カゼイ様のリク。できてるか親友か、どっちにしても仲良し。
仲良し。仲良し…か!?仲良しだ!!
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