■悟空の謎

●腹減った!の謎

年がら年中腹減った腹減ったと騒いでいる悟空ですが、彼は500年間飲まず食わずで封印されていた訳ですから食わなくても死なないようです。さすがに成長ホルモンがストップする笑えない事態に陥ってはいますが自然のエネルギーを効率よく最低レベルの臓器維持に回すメカニズムを備えている、まさに奇跡の子供といえましょう。さて通常の生物は必要以上の食物を身体が受け付けないようにできています。消費カロリー以上の食物を身体が要求することは絶対にありえません。それは身体ではなく精神が要求するものです。食べることによって癒される快感を心が覚えているから食べるのです。「精神的快楽が身体の本能を超える」現象は高等生物特有のものです。悟浄によって「脳みそ胃袋」と表現された悟空の食欲は、なんと彼が猿ではなく高等生物である証だったのです。当たり前です。問題はその次です。食欲・性欲・睡眠欲が身体の本能を超えてしまう人の傾向として、常に自身の本能以外のものに過剰に拠り所を求めその一点に逃げがちな傾向があります。悟空にとってそれは金蝉であり三蔵です。ところが悟空は身体の成長とともに精神もスクスク成長し、八戒に強くならなきゃと諭されてあっさり強くなってしまいました。その好ましい成長ぶりは、三蔵が砂漠の蠍妖怪に刺されて今にも死ぬというこの非常時に、八戒が思わず点描トーンを背景ににっこりしてしまうほどです。八戒にとってこの時の気分はまさに父の屍を越えていけだったと思われます。保父が保護者の生死より園児の成長を重んじた危険なシーンでありNHKでは放映できません。この砂漠事件は悟空の三蔵からの自立、そして依存からの脱出を現しています。一旦脱出した悟空に、再び瓢箪の中で「絶対的な存在があるんじゃないですか」などと脅し混乱させる八戒の意図は不明です。おそらくは18歳の悟空より幼い銀閣に保父の血が騒いだか、銀閣の話に茶々を入れる悟空を黙らせたかっただけでしょう。そういった訳で最近の悟空は以前のような食欲魔神とは明らかに違います。たまに「腹減った」と騒いでみるのは彼の優しさです。明日の米もない極貧家庭ならいざ知らず、大抵の親は子供に「おなかすいたー」と言われると嬉しく思います。しょうがねえなあ、とかうるせえ、とか返しつつも和み、快感を覚えるものです。彼はどんな緊迫した状況でも「腹減った」で場を和ませることができるのです。そんな気配りの行き届いた甘え方が出来るようになった悟空の反動か、最近の大人たちは幼児退行が甚だしいようです。前に進むために多少の犠牲はつきものですから、麻雀ごときに怒りで顔を白くするような八戒や、何がそんなに気にくわないのか大真面目に殴り合う三蔵と悟浄に臆することなく更なる成長を遂げて欲しいものです。最遊記のすべては彼にかかっているのですから。


マジ殺してえ…。