暴走について考える
BACK


最遊記は桃源郷に異変が起こったところから始まります。
異変とは、それまで人間と共存していた妖怪の「凶暴化」および「自我の喪失」と説明されます。ですが始まった途端よく分かりません。凶暴化はともかく自我の喪失とは何ぞや。
平々凡々な生活を送る私に一番想像しやすい自我喪失状態は「薬でラリった」状態です。牛魔王サイドが具体的に何をどうしたかは不明ですが、化学の力であろうことは吠塔城の有様で容易に推測できますし、何より分かりやすいので、
妖怪用ドラッグを撒いたと仮定してみましょう。桃源郷全土に薬を散布した。が子供や半妖には効きが悪かった。…半妖はともかく薬なら子供にはもっと効いちゃう気がしますが、まあ仮定です。
異変後一行に襲いかかってくる妖怪は、聞いてもいないのに朗々と自己紹介したり、紅王子の命だと宣言したり、タラシとふんだメンバーに色仕掛けかましたり、人質を取ったり、人間と結託して裏取引したりと人間味溢れる行動に、時に理知的に出てきます。凶暴かもしれませんが獣ではありません。少なくとも話はちゃんと通じます。鷭里なんか異変前からこんな感じです。とても自我が行方不明とは思えません。
ここで耶雲さんを見てみます。彼は怒りで我を忘れた結果異変の影響を受け、人間のみならず一行内妖怪にまで襲いかかってきます。当然ながら耶雲は紅王子とは無関係です。単に一行がそこにいたから襲ったのです。正しく自我を喪失したといえます。何故耶雲と他の妖怪たちで様子が異なるのか。
RELOAD終盤妖怪村で、種明かしが行われます。妖怪は最初は錯乱するが、やがて落ち着く。衝撃の事実です。落ち着くまでの時間は不明ですが、何ヶ月何年単位で錯乱してたら一行が出会う妖怪はみな錯乱中なので、長くとも数日とみるべきでしょう。落ち着くと、人間のことは「共存する相手」ではなく「肉」に見えるようです。かといって人間を見るなり頭かち割ったりはしません。いくら豚肉に目がない人間でも豚が道を歩いてたからといって我を忘れて即バーベキューしたりしないように、食欲に支配されない理性を保っています。更に人間の肉が主食という訳でもない、どころか一行に妖怪だよな?と尋ねていますから結構いい加減です。我らが八戒様は「眠る野生が目覚める現象」と小粋に説明しています。つまり異変とは自我が喪失する事ではなく、妖怪が一時的な自我喪失を通じて本来の凶暴な状態に立ち返る現象、すなわち共存状態こそが異変だったという価値観の転換が行われるのです。これ程の提起が行われる以上、御大自らの発言とはいえRELOADを寄り道編と称することに、私は躊躇を禁じ得ません。
ところで耶雲が面倒をみていたのは親が暴走して残された遺児です。暴走状態を経てやがて落ち着くのであれば、親は落ち着いた瞬間「あ、子供置いて来ちゃったわ」と子供の元へ戻るのではないか。でなければ妖怪村の家族たちが存続できません。親は元いた村の村人に子供の居場所を尋ねたでしょう。ここでは食欲より子を案じる気持ちが勝ったに違いないのです。ですが暴走した瞬間の姿が目に焼き付いて怯えている人間は、耶雲の元に子供がいるのを知っていながら問答無用に親たちを打ち倒した…。悲しい。これ思いの外悲しい。耶雲自身もやがて落ち着いたと想像できるので、彼を殺さずに済んだ未来もあったはずです。もっとも耶雲は暴走した子供たちを殺めています。守るべきものを無くした今、理性を取り戻した後も自らを悔いて命を絶ったかもしれません。どうあがいても絶望。
もうひとつ恐ろしい疑惑もわきます。すべての妖怪が落ち着くとは限らない、という説です。
薬(仮定)である以上、アレルギー反応が出たり副作用を生じて永遠に落ち着かない可能性も考えられます。錯乱してる間に崖から落ちたり交通事故を起こすかもしれません。ドラッグ・ダメ・絶対。ですがこの説には私は懐疑的です。何故なら妖怪村の女の子の発言は、すべての妖怪が暴走後に落ち着いているように聞こえるからです。
「あんたたちも早く本当の姿になれるといいな(頭が爆発したままなのもたまにいるけど)とか怖すぎます。オーケー、妖怪は暴走後はもれなく落ち着き生まれ変わる。そして人肉が好物になる。これが結論だ。
さて悟浄です。悟浄が暴走したら大変だと萌え心配していましたが、ほっとけば落ち着くようです。近しい者が自我を失う恐怖と悲しみは計り知れないもの、いつ襲うやも知れぬそんな恐怖と戦うよりは、完全に暴走して落ち着き終わったほうが逆に安全という見方さえ生まれます。悟空と八戒にも同じことが言えますが、特に悟空は落ち着くまでの犠牲が大きすぎます。落ち着くのを待ってる間に世界が滅びては元も子もありません。悟浄が暴走期間になんとか三人がかりで縛り倒して監禁できるギリラインなのです。生まれ変わった個体には制御が効かないのではないかという懸念もあります。悟空と八戒がどこから見ても立派な妖怪になってしまうと一行の旅に支障が出てしまいます。ここでも悟浄が人間と見た目が変わらず、紋様が目立たない場所に出た設定が活きてきます。禁忌は赤い目と決まっているのだから目は赤いままでしょうし、耳さえ尖らなければセーフです。無論人間および三蔵が肉に見えるようにはなりますが、先程申したように目の前に肉があるからといって喰わなきゃならない法はありません。常時我慢を強いられる悟浄…不憫萌え完備の悟浄ファンには萌えしかありませんし、友情を食欲に試されるなど浄三や三浄好きさんにも萌えしかない、いえ悟浄と三蔵を近づけないよう常に八戒と悟空が双方にくっついてくるので最早どれ好きさんにとっても全方向すべからく萌えしかありません。どうあがいても希望。
オーケー、悟浄。暴走しよう。