●マンションについて思うこと
私は今のマンションに住み始めて30年程になり、銀行のローンが少し前に終りほっとした状態です。
さて、私も当初はマンションは仮の住まい、将来は1戸建てに住むものだとぼんやりと考えていました。奈良の田舎には土地があるものの、その考えは消えました。個人的には田舎が好きでも家族がそうだとは限りませんし、例え引退後の20年間ほど住んでも子供たちがその家を引き継ぐ保証はありません。せっかくの家が売れずに廃墟になり、子供や近所にも迷惑をかけるだけとなります。
考えてみれば、老後は都会の方が便利そうです。田舎で老後をゆったりと過ごすというのは、長男夫婦が同居して跡を継ぎ、孫と一緒に遊ぶという一昔前の良き時代の話かもしれません。
そのためか近年マンション居住者には、マンションを終生の棲家と考える傾向が表れています。更にはせっかくの自宅を処分し、マンションで気楽に老後を過ごしたいという人も知っています。あるいは、別のマンションに住み替えたとしても、いずれはどこかのマンションで最期を迎えるのだと思っている人も多いはずです。
このようにマンションは仮の住まいでなく永住する場所に変わってきていると思います。したがって、同じ住み続けるのなら気持ちよく住みたいし、資産価値も維持しなければなりません。例え、買い換えするにしても高く売れるほうが良いに決まっています。
● コミュニティの重要性
ところが、マンションも年数が経過すると様々な問題が出てきます。建物・設備の老朽化、居住者の高齢化、賃貸化等です。また新しいマンションでも管理会社任せの管理で住民の無関心を招き、組合活動の沈滞や住民間のトラブルが発生して、結果的に住み辛く経済的な損失を招くこともあります。
マンションは近所付き合いに煩わされず、自分ひとりで勝手に暮らしていけると考えがちですが、共同住宅である以上ルールが存在しそれに従わなければなりません。例えルール違反がなくても、それだけでは空疎なものになります.
終生の棲家とするために、「建物を維持していく」「障害を取り除く」といった最低限の共通認識が形成される必要があります。年に一度の防災訓練や新入居者に対する規約の説明があるといった状態です。その上に皆でマンションをどうしていくか、経済的負担も含めて合意形成ができていれば、感情も共有できる本当のコミュニティが形成されるでしょう。
コミュニティは単に餅つきやカラオケ大会が開かれるという意味ではなく、共同の住生活を守るという利害関係の一致による共通感情が必須です。カラオケ大会は手段であって目的ではありません。管理組合の最終目的は住環境を向上させるためのコミュニティを形成することだと考えます。
コミュニティの形成といっても、例えば永住派と仮住まい派では微妙に感情も異なりますが、共通項として永住派の目指すことが仮住まい派にとっても不利益にはならないはずです。
ところが管理組合は、元々法律であてがわれたもので、理事も当番制の単なる名目の機関に過ぎないことも多い様です。一般に、管理組合は建物共用部分の維持管理だけのものだとされがちですが、その途中に専用部分の利用の関与、住民間の問題の解決等も発生し、住民の意思の合意形成や意思決定といったものが本来の役割であるはずです。
●マンション管理士の役割・管理会社との関係
さて、管理組合特に理事会が本来の役割を果たすには確かに困難が伴います。そのために日常の業務は管理会社に依頼するのも仕方ありません。
日常の共用部分の維持管理や保全などはこうしたプロに任す方がいいかもしれません。
しかし、判断や決断、事業計画の決定や民意の合意形成といった本来の部分は自分の責任で行うしかありません。すなわち自分たちの住社会を他者に投げ出すわけにはいかないのです。
管理会社は、運営補助・情報提供と称して管理組合の「判断誘導」をすべきでなく、ましてや利益誘導などは論外です。判断誘導を繰り返すと結局、本来の役割能力が備わらず、自分たちの環境をいつまでたっても形成できません。管理会社といえども各マンションの個別事情や微妙な事柄に対して個々には対処できませんし、結局は複数の組合を受け持つ一人の担当フロントマンの力でしかない訳です。
あくまで管理会社は、管理といった部分でスケールメリットを発揮したサービスを提供できますが、住民感情等を伴う部分には踏み込めません。
このように管理組合の本来の役割部分は自分で遂行すべきなのですが簡単ではありません。そうかといって、単に建物さえきれいであれば十分というのでは、必ず行き詰まりが生じ、資産価値の維持もおぼつかなくなるかもしれません。そのためにマンション管理士が誕生したのです。
マンション管理士も住民から見て他人であり、報酬を得る事には変わりがありませんが、業務の目的・次元がまるで異なります。管理組合の自立を支援し利益を守るということです。不当な管理費や修繕工事の費用にも目を光らせることもありますし、建て替え等非常に重要な事については更に厳しい客観性・中立性が要求されます。
法律においてもマンション管理士に対する遵守義務と罰則も規定されていますが、別途自主的に管理士団体などでより具体的な倫理規程や努力義務を設けているのはそのためです。
こうしたことから、マンション管理士はどこの企業にも属さず個人として全責任を負う立場が必要です。もし顧客に損害を与えたり信用を無くせば、配置転換などといったことはあり得ず、そのまま追放されてしまうのです。
これは、他の士業にも共通した宿命です。ただし、1人の個人として能力の限界や、してはならない業務もあるため、協会を作り建築士や弁護士などの専門家ともタイアップしています。
最後に、私は貴マンションの固有のコミュニティを作るためにも、単に修繕計画を作るだけとか一方的な提案をするのでなく、その根底をなす状況の把握と問題の整理分析を重視し、ビジョンの作成に共に参加するというスタンスでお役に立ちたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
|