石垣島の1月と2月はどっちが寒い
− 月平均気温に見られる変動 −
(2018.01.01 掲載)


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石垣島の1月と2月はどっちが寒い
− 月平均気温に見られる変動 −

1.はじめに
 石垣島気候篇(岩崎,1927)*1 によると,石垣島測候所(現石垣島地方気象台)の開設,観測開始(1987年)のころは,2月の月平均気温(*2)が1月の月平均気温より低いことが示されている。
 最近では,1月の月平均気温のほうが2月の月平均気温より低い(気象庁,2011)。
 石垣島の観測開始以来の月平均気温の値から,1月と2月の月平均気温の変動の特徴を探った。

*1  オリジナルでなく,岩崎卓爾一巻全集(1972)を参照した。
*2  日平均気温の月平均の意。以下すべて同じ。

2.用いたデータ
 岩崎(1927)以外は,気象庁 Web Site から取得した(月平均気温類年値,平年値(1981-2010年),天気図類等)。

3.岩崎(1927)の値
 岩崎(1927)には,気象慨表,今日的な表現でいえば,気候表,平年値表がまとめられている(第1表)。ただし統計期間についての記述はない。
 まずは,統計期間の特定を試みた。
 岩崎(1927)には,1926年12月に関する記述(*3)があることから,執筆直前の1926年の値まで用いていることが推測される。
 1897年の観測開始以来の月平均値から,1897〜1926年の30年平均値を算出し,岩崎(1927)の値と比較した。その結果,4月が0.1℃異なったほか,残りのほかの11か月は一致した。
 岩崎(1927)の気象慨表(の月平均気温)は,1897〜1926年の30年の平均値と推察される。

第1表 石垣島気候篇の気候慨表に示された値と現在の平年値
(1981-2010年の30年平均値) 単位:℃

気温*4 現平年値 差*5
1月 18.1 18.6 +0.5
2月 17.7 19.1 +1.4
3月 19.8 20.8 +1.0
4月 22.4 23.3 +0.9
5月 24.8 25.7 +0.9
6月 24.8 25.7 +0.9
7月 28.3 29.5 +1.2
8月 28.0 29.2 +1.2
9月 26.9 27.9 +1.0
10月 24.6 25.9 +1.3
11月 21.9 23.2 +1.3
12月 19.2 20.1 +0.9


*3
 
魚の凍死の記述がある。近年でも,冬場,明け方が干潮であると,浅瀬の海水温が下がり,魚が仮死状態となることがある。
*4 岩崎(1927)では, 空気の温度 と記述されている。
*5 現平年値から岩崎(1927)の値を引いた値。

4.石垣島の1月,2月の月平均気温の前30年平均の経年変化
 岩崎(1927)では,月平均気温は,1月が18.1℃,2月が17.7℃と2月の月平均気温のほうが低くなっている。第1表には現在の平年値(1981〜2010年の30年平均)も併記したが,現在の平年値は,当時に比べ,各月とも1.0℃程度高くなっている。
 とくに2月は,+1.4℃と,各月のなかで最も大きな値となっている。一方,1月は+0.5℃で,最も小さな差となっており,1月と2月の月平均気温の(長期的変動)に違いのあることが示唆される。
 1月と2月の月平均気温の30年平均値が90年前と現在で逆転していることから,まず,1月と2月の月平均気温の前30年平均の経年変化を見てみる。第1図は2016年までの石垣島の1月と2月の月平均気温の前30年平均の経年変化である。

30yr-mean

第1図 石垣島の1月,2月の月平均気温の前30年平均の経年変化
単位:℃ 青:1月 赤:2月


 この図から,1月の月平均気温の前30年平均について,
   ・1926年から次第に低くなり,1946年には17.7℃になる。
   ・その後,1954年には18.0℃となるが,再び下がり,1984年に17.6℃となる。
   ・その後は上昇し,2016年は18.8℃と,2010平年値より0.2℃高い。
ことが見てとれる。また,2月の月平均気温の前30年平均については,
   ・1931年に2月の月平均気温の前30年平均は前年に比べおよそ0.3℃高くなる。
   ・1950年までは18.0〜18.1℃と大きな変動はない。
   ・1959年にかけ上昇し18.4℃に,その後は1997年まで,18.2〜18.4℃で変動。
   ・1997年以降は,1998年に18.6℃,2009年には19.0℃と上昇,2016年には2011平年値より0.2℃高い,19.3℃。
ということが見てとれる。これらの変動から,
   ・1926年から1930年までは,1月の月平均気温の前30年平均が,2月のそれより高い。
   ・1931,32,33年の3年は,1,2月ともに18.0℃で,ふたつの線は交わっている。
   ・1934年以降は2月の月平均気温の前30年平均が1月を上回っている。
となっている。
 1月と2月の月平均気温の前30年平均が,1930年代に逆転していることや,その後の変動も,1月はしばらく下降,2月は上昇と違いがある。その違いを,月平均気温の変動から見てみることにする。

5.石垣島の1月,2月の月平均気温の経年変化
 第2図は,1897年から2016年までの石垣島の1月,2月の月平均気温の経年変化である。
 1月の月平均気温については,
   ・1897年(20.7℃),1901年(20.1℃),1905年(19.8℃)と高く,1月の月平均気温の高い方からそれぞれ1位,4位,6位(タイ)である。
   ・1918年(13.6℃),1917年(15.5℃)は低温で,1月の月平均気温の低い方から2位と3位,通年で3位と6位。
といった点が,2月の月平均気温については,
   ・1901年(13.3℃)は極端な低温。通年で月平均気温の低い方から1位。
   ・1931年(20.1℃)は高温。2月の月平均気温の高い方から9位。
といった点が目につく。さらに,
   ・1910年までは,1月の月平均気温が2月の月平均気温を上回ることが多い。
   ・その後は2月の月平均気温が1月の月平均気温を上回ることが多い。
   ・しかし,数年に1度程度,1月の月平均気温のほうが高い年がある。
ことが見てとれる。

monthly

第2図 石垣島の1月,2月の月平均気温の経年変化
単位:℃ 青:1月 赤:2月

 また,長期的な変動傾向の観点からは,1月の月平均気温については,
   ・1930年代にかけ下降傾向,その後1980年代半ばまで上昇,下降いずれの傾向もない。
   ・1980年代後半から高い(低い年が少ない)。
ことが,2月の月平均気温については,
   ・1960年代までは上昇,下降いずれの傾向もない。
   ・1970年代から上昇傾向。
といった点が目につく。
 前30年平均値は1931年(すなわち1902−1931年の平均)を境に2月のほうが高くなる。
 この,1月と2月の前30年平均値の逆転には,1897年1月,1901年1月の高温,1901年2月の低温が含まれるかどうかが大きく関わっている。この変動について,同時期の那覇の月平均気温と比較し,確認しておく。
 那覇の観測開始は1890年7月で石垣島より古いが,1923年1〜7月が欠測となっていることから,那覇,石垣島で共通する1897〜1922年の26年の平均値をもとめ,それからの差を比較した(*6)。
 第3図は,那覇,石垣島の1,2月の月平均気温の1897〜1922年の26年の平均値からの差の経年変化である。那覇は1891年から,石垣島は1897年から1922年までである。この図から,
   ・那覇と石垣島の月平均気温は同様の変動
をしていることがわかる。
 那覇と石垣島の月平均気温の相関を計算すると,1月は 0.95,2月は 0.96 と大きな値となっている。
 1897年や1901年は極端な天候であったことがわかる。

Ishigaki_Naha

第3図 那覇,石垣島の1月,2月の月平均気温の経年変化
単位:℃ 青実線:那覇 1月 青点線:石垣島 1月
     赤実線:那覇 2月 赤点線:石垣島 2月


*6
 
 
 
石垣島と那覇では,緯度で1.9度,およそ約210qの南北差がある。年平均気温の平年値(1981〜2010年)でも,それぞれ24.3℃,23.1℃と1.2℃の差がある。この点をふまえ,26年平均値からの差の変動を比較した。

6.石垣島の1月と2月の月平均気温の差の経年変化
 数年に1度程度,1月の月平均気温のほうが高い年が見られることから,1月の月平均気温と2月の月平均気温の差を求め,その経年変動を見てみた。
 第4図は,1897年から2016年までの石垣島の1月の月平均気温と2月の月平均気温の差(1月−2月)の経年変化である。
 1月の月平均気温が低い(グラフで負の値)年が多いが,数年に1度程度,正の値,すなわち1月の月平均気温が2月より高い年がある。
 周期分析を行うと(*7),約2年,約3年の周期がえられた。
 最近でも,2008年には2.2℃,2016年には0.9℃,1月の月平均気温が2月の月平均気温を上回っている。また,2009年以降は負の値が続くものの,2012年はその程度が小さいなど,数年周期での変動がみられる。

Jan-Feb

第4図 石垣島の1月の月平均気温と2月の月平均気温の差の経年変化
1月の値から2月の値を引いた値  単位:℃

*7 統計数理研究所 Web DECOMP の ARfit による

7. 1月,2月の月平均気温の変動と大気の循環
 石垣島における観測初期には1月の月平均気温が2月の月平均気温を上回ることが多かったものの,1950年ころからは2月の月平均気温のほうが高いことが多い。しかし,最近も含め,数年に一度程度,1月の月平均気温が2月の月平均気温を上回る,あるいは,1月と2月の月平均気温の差が小さいことがある。
 このようなことと大気循環の特徴を探ってみる。

7.1 850hPaの風(石垣島高層観測)
 気象庁の Web site には,1989年以降の高層観測値(月平均値)がある。石垣島の高層観測から,850hPaの風との関係を調べた(*8)。気象庁の Web site に掲載されているのは,09時の観測と21時の観測をそれぞれ月平均した値であるので,09時と21時を平均し,さらに南北成分と東西成分を求めた。
 月平均気温と850hPa風の南北成分との相関を見ると,1月の月平均気温と850hPa風南北成分との間には−0.60,2月は−0.58の相関が,1月と2月の月平均気温の差と850hPa風南北成分の差には−0.72の相関がみられた。いずれも危険率1%で有意である。

*8
 
 
1000hPaの風との関連も見たてみたが,2月の月平均気温と1000hPa風南北成分とは−0.88と大きな相関がみられたが,1月は−0.34と有意ではなかった。

7.2 850hPa流線関数(事例解析)
 850hPaの風との関係を認められることから,850hPaの循環場との関連を見てみた。残念ながら,格子点値を利用できる環境をもたないので,1月と2月が対照的な例について,平均天気図を用いて,その特徴をみた。

(1)2008年の1月と2月
 2008年の1月の月平均気温は19.7℃(1989−2016年の平均との差+0.9℃),2月は17.5℃(同−1.8℃)と,1月の月平均気温が2月より2.2℃高かった年である。風の南北成分は,1月は0.3m/s(同−0.9m/s),2月は1.8m/s(同+1.6m/s)と,1月は北風が弱く,2月は北風が強い。
 月平均850hPa流線関数・偏差図(第5図)を比べてみると,1月は台湾から太平洋150゚E付近にかけて高気圧性偏差となっているが,2月はフィリピンの南から北東方向,日本列島の南にかけ低気圧性偏差となっている。
 1月は,平年に比べ,20〜25゚N帯から北方向へ傾度があり,(平年より)南から北への流れが強く,北からの寒気は弱くなる流れとなっている。
 2月は,石垣島付近では,北西から南東方向へ傾度で,北西方向からの寒気が平年より強い流れとなっている。


psi850

第5図 月平均850hPa流線関数・偏差
上:2008年1月  下:2008年2月
等値線間隔:2.5×10の6乗・u/s 偏差:1×10の6乗・u/s

(2)2009年の1月と2月
 2009年の1月の月平均気温は18.2℃(1989−2016年の平均との差−0.4℃),2月は21.9℃(同+2.6℃)で,2月の月平均気温がかなり高かった年である。1月の風の南北成分は3.0m/s(同+1.8m/s),2月は−2.5m/s(−2.7m/s)と,1月は北風が強く,2月は南風となっている。
 月平均850hPa流線関数・偏差図(第6図)を比べてみると,1月はフィリピン付近から中国沿岸部,朝鮮半島,西日本において低気圧性偏差となっている。2月はフィリピン付近から南シナ海で低気圧性偏差で,中国沿岸部,東シナ海から朝鮮半島,日本列島,太平洋にかけては高気圧性偏差となっている。
 1月は,フィリピン付近の低気圧性偏差が大きく,石垣島付近では,北から南方向に傾度があり,北から寒気の入る流れとなっている。
 2月は,南西方向や北西方向への傾度が大きく,寒気は入りにくい流れとなっている。


psi850

第5図 月平均850hPa流線関数・偏差
上:2009年1月  下:2009年2月
等値線間隔:2.5×10の6乗・u/s 偏差:1×10の6乗・u/s

 月平均気温の高かった,2008年1月,2009年2月では,日付変更線付近から150゚E付近の30〜50゚N帯で高気圧性偏差が顕著でることが共通している。
 なお,OLR( Outgoing Longwave Radiation 外向き長波放射量)の偏差分布から対流活動との対応を見てみた(図略)が,気温に関係なく,両年とも2月に,15゚S〜15゚N,90〜140゚Eの範囲で例年より活発であり,対流活動からは明瞭な特徴はえられなかった。
 同様に,赤道域季節内変動( MJO Madden Julian Oscillation 200hP速度ポテンシャル時間・経度断面図から推測,図略)との対応もはっきりしなかった。

8. まとめ
 石垣島の1897年の観測開始以来の1月,2月の月平均気温の変動について調べた。
 1900年前後に,1月の月平均気温が極端に高い年があほか,1910年ころまでは,1月の月平均気温が2月の月平均気温を上回ることが多い。
 1月の月平均気温は1930年代にかけ下降傾向がみられる。
 これらを反映し,30年平均でも,1902−31年平均までは,1月の月平均気温のほうが2月の月平均気温が高い。
 岩崎(1927)の気象慨表の値は,1897−1926年の30年とみられ,1月の月平均気温が2月の月平均気温より高い。
 前30年平均値では,1,2月とも,1980年代以降上昇が顕著である。
 最近においても,数年に1度程度,1月の月平均気温が2月の月平均気温を上回る。
 1989〜2016年を対象に,1,2月の月平均気温と月平均の850hPaの風の南北成分について調べたところ,1月,2月とも有意な負の相関がえられ,1月と2月の差についても有意な負の相関がえられた。
 月平均850hPa流線関数偏差図では,月平均気温の低かった2008年2月,2009年1月では,フィリピン付近で低気圧性偏差が明瞭で,石垣島付近では,北西〜北から南東〜南にかけ傾度があり,北西〜北風が強い流れとなっていた。
 月平均気温の高かった2008年1月,2009年2月では,日付変更線付近から150゚W付近にかけて高気圧性偏差が顕著で,石垣島付近では,北〜北西方向に傾度があり,北〜北西からの寒気が入りにくい流れとなっていた。





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