天候の解説をめぐって
(2017.08.18 掲載)


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 同じ大気に関することとはいえ,天気と天候は異なるもの。
 天候の解説には,相応の知識とデータを用いる必要があります。

 このような動画がありました。
https://www.youtube.com/watch?v=PztAXNvKzF8

 この動画は,証券会社の商品解説の中に使われています。この商品は,ある期間の真夏日日数により金利を変動させるといものです。
 証券会社は,
※本動画では気象予報士が気象庁公表の客観的なデータを元に8月の天候予想を行っているものであり、マネックス証券はその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。本情報に含まれる過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。当社は本情報の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。
との注意書きをしています。

 動画では,1分過ぎに,「海面水温からみていきましょう。つまりは海の温度ということですね。」といっていますが,「海の温度」というと,気象や海洋の知識のある人は,「海水温」を思い浮かべると思います。海面水温と海水温は異なるもので,海面水温は文字通り,海の表面の温度,海水温は海の中の温度です。気象庁の Web site では,海面水温と表層水温と異なる分布図が提供されています。
 さらに動画では,2017年7月30日の海面水温の実況(平年差)図を示して,「日本列島周辺の海面水温が平年より高い」ことを指摘しています。このこと自体は間違いありません。が,そのあと,「海水の温度が高くなっているということは,熱を蓄えていて,地上の気温も上がりやすくなっている」と説明しています。
 自ら「水というのは空気と比べると,温まりにくく,さめにくい」と説明していますが,このことは,(熱容量が大きい)海面水温は大気よりゆっくり変動するということを意味します。
 10日〜1か月程度の時間スケールでは,気温の高(低)い状況が続くと海面水温も上(下)がる,というのが実態です。
 また,海面水温が平年に比べ高いとはいうものの,海面水温自体はどうなのか示していません。関東地方沿岸では,海面水温は24〜26℃程度です(気象庁の Web site で7月30日の分布図を確認)。平年を1℃程度上回っていても,海面水温は気温より低く,気温を上げることはできません。

 海面水温が「平年を上回っている」から,「気温が高くなりそう」という説明には無理があります。

 2分25秒ころから,「PJパターン」について述べています。

 「PJパターンというのは,フィリピンのあたりで,地上から上空に向かって,雲のもととなる暖かく湿った空気が上昇していくと積乱雲が発生します。そうすると,フィリピンあたりは低気圧ができるんです。低気圧で,地上から上空に向かってどんどん空気が昇っていくと,どこかで降りないといけないですよね。フィリピンで昇ったこの空気が降りる先がちょうど日本付近なんです。そうすると日本付近は,高気圧になります。つまり,晴れて,夏の強い日射しで気温が上がりやすくなるということなんです。」

 この説明は,もっと時間的・空間的に大きな現象,亜熱帯高気圧の一般的な説明のように思えます。このような効果もあるでしょうが,対流雲が発生・発達するので,膨大な熱(凝結熱)が出ます。この熱エネルギーが伝わる,と考えるほうが現象の空間スケールからは妥当のような気がします。
 ちょっとそれますが,PJパターンは,Nitta(1987)がもとになっています。解析に用いられたのは5日平均の衛星データで,期間は1978年から1984年の7年と短い期間です。その後,Tsuyuki & Kurihara(1989)により解析されるとともに,モデルシミュレーションにより確かめられました。データ期間の短い解析にもかかわらず,今日でも通用するのは,モデルシミュレーションで物理的に確かめられたからです。夏季の熱帯の対流活動と日本の天候を語る上で,Tsuyuki & Kurihara(1989)は,必読の論文です。

 3分20秒ころから,「今年の夏はこのPJパターンに当てはまるのか,あてはまらないのか,簡単に判断することができるんですよ。それは,台風の発生地点を見ればいいんです。
 この黄色×印が台風が発生している場所なんですが,10個のうち8個がフィリピン付近でできています。
 つまり,このフィリピン付近では,暖かく湿った空気が地上から上空に向かって上昇して,積乱雲が発生しているということなんです。
 現在はこのPJパターンに当てはまっているということがわかります。
 日本は暑くなりやすい状況にあるんですね。」

 いろいろ指摘すべきことがあり,うまく文章がまとまりません。

 PJパターンは1年を通じて持続するようものではありません。盛夏期の,フィリピン付近の対流活動によってもたらされる現象をさし,対流活動にも変動があり,延々と活発な状態が持続するということはありません。せいぜい1か月程度の時間スケールの現象です。日本気象予報士会(編)(2008)に典型的な1984年8月の図が掲載されています。この時も8月の終わりにはフィリピン付近の対流活動は弱まっています。

 MJO(Madden Julian Oscillation) ,赤道季節内振動という現象が知られています(Madden & Julian, 1971, 72)。赤道域を,低圧部が,20〜50日程度の周期で西から東へ移動する現象です。常に明瞭であるとは限らない,周期が一定でないなど,まだ,十分解明されてはいません。数値予報モデルでもまだ十分に再現できていません、中緯度への影響,週間予報や1か月予報の精度にも大きく関わり,数値予報の課題の一つです。
 この低圧部では対流が活発化しやすく,この位相が東に去ってしまうと不活発になります。フィリピン付近の対流活動ももちろんこの影響を受けます。延々と活発な状態が持続するようなことはないのです。
 このことを最近の天候で考えてみましょう。2017年の6月下旬から7月中旬にかけて,ベンガル湾からインドネシアにかけ,対流活発な位相となりました。7月上旬から半ばにかけては,梅雨明け前でも晴れて暑くなりました。その後,7月の終りには対流活動が不活発となり,太平洋高気圧の日本付近への張り出しも弱くなりました。7月下旬から8月半ば,北・東日本の太平洋側では曇りや雨の日が多くなり,日照不足に関する情報も発表されました。
 赤道域の対流活動や大規模発散(速度ポテンシャル)を見ると,6日ころにはインド洋西部,14日ころにはインドシナ半島付近へと対流活動の活発な位相が東進しており,20日頃には西部太平洋熱帯域で対流活動が活発になるかもしれません。活発になれば,高気圧も強まり,暑い晴天が期待されます。

 このように対流活動の活発な領域は変動しますから,今年の台風の発生箇所をもって「PJパターン」などとはいえません。

 また,ベンガル湾からフィリピンの東海上にかけては,平年でも対流活動の活発な領域です。長い期間で考えれば,多くの台風がこの領域で発生します(熱帯の海面水温の分布が大きく変わるエルニーニョ時には,台風の発生する領域が東に偏ります)。

 この VIDEO の解説は,せっかくの着眼点も,知見が不足,あるいは適切に生かすことができず,残念な(怪しげな)解説になってしまっています。

 フィリピン付近で対流活動が活発,積乱雲できやすいと,日本付近で高気圧が強まり,暑くなることが知られています。7月上旬このような状況になり,梅雨明け前でも暑くなりました。7月の終りになり,ちょっと対流活動が弱まっています。この対流活動は20〜50日程度の周期をもつといわれおり,8月の後半には再び対流活動が活発となり,暑くなるかもしれません。

 私なら,このように説明します。


【参考文献】
Madden, R.A. and Julian, P.R.,1971:Detection of a 40-50 Day Oscillation in the Zonal Wind in the Tropical Pacific, J. Atmos. Sci., 28, 702-708.
Madden, R.A. and Julian, P.R.,1972:Description of Global-Scale Circulation Cells in the Tropics with a 40-50 Day Period, J. Atmos. Sci., 29, 1109-1123.
日本気象予報士会(編),2008:気象予報士ハンドブック,PP 928, オーム社
Nitta Ts, 1987:Convective Activities in the Tropical Western Pacific and Their Impact on the Northern Hemisphere Summer Circulation, J. Meteor. Soc. Japan, 65, 373-390.
Tsuyuki T., K. Kurihara, 1989:Impact of Convective Activity in the Western Tropical Pacific on the East Asian Summer Circulation, J. Meteor. Soc. Japan, 67, 231-247.






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