Sweetweddingdays6

 「やだ・・も・・や・・あぁぁ!」
 頭上から降りしきる少しだけ温めのお湯。
 すでに一度達かされてはいるものの、愛撫の手は休まることなく、再び熱くなり始めたそれに指が絡む。
「あん・・ひ・火村・・お湯・・くるし・・」
「何だよ声が響くから嫌だっていったのはお前だろう?」
「だけど・・い・・は・・も・・もうやだぁ・・」
 流れ落ちるシャワーのお湯と共に頬を伝って流れる涙。何が嫌なのか。止めてほしいのはお湯なのか。この行為なのか、それとも・・・。
「・・・アリス」
「ん・・ぁ・・んっ・・く・・」
 キュッとシャワーのコックを捻り、火村は降り注ぐお湯を止めた。
 そうして濡れた髪を掻き上げて、誘うように開いた唇にそっと唇を重ねる。
「・・・匂い・・とれたな」
「・・当たり前や・・。あれだけ洗ってお湯をかぶればどんな匂いだって消えるわ」
 どんな風に洗われたのかは思い出したくもない。思わず赤くなった有栖に、火村はクスリと笑ってその身体を抱き締めた。
「それで吐きそうなのはどうなんだ?」
「・・・今更や」
 これだけやっておいて吐くも何もないだろう。
 元々アルコールは酔い潰れるほどは飲んではいないのだ。酔いも抜け、バーのトイレで吐きたいだけ吐いた胃もおさまって、後の心配と言えば湯当たりと、その後の湯冷めというところだろうか。
「じゃあ、いいな」
「・・・・・・・・」
 何が、どう、いいのか。多分、答えは今思ったことでほぼ間違いはないだろう。
「・・・ひ・・むら・・」
「馬鹿、そんな顔するなよ、却って手加減できなくなる」
「あ・アホゥ!・・」
「違うだろう?アリス。ここは『早く』とか、『きて』ってところだろう」
「変態オヤジ!」
「よく言った。せっかくこれで浮気の件は勘弁してやろうと思ったのにまだ足りないらしいな。こうなったらとことん付き合って貰おうじゃねぇか」
「!!ちょ・火村!せやから浮気とちゃうって・・っい・や・・あ・あぁぁ!!」
 抱え上げられて広げられた足。触れた指。
 ついで突き立てられた高ぶりに身を竦ませて。
「・・なぁ、アリス・・」
「・・っ・・」
 ゆっくりと押し入ってくる熱い塊に息を呑むようにして有栖は閉じた目を開いた。
 視界に入る見慣れた顔。
 端正なその顔は今は上気してどこか苦しげにも、そして優しげにも見えた。
「夕べ・・寝不足だったんだって?」
「!」
 なぜいきなりそんな話になるのか。どうして火村がそんな事を知っているのか。
「・・あ・・朝井さんから・・聞いたんか・・」
 そうとしか考えられない。けれどその名前を出した途端火村は不機嫌そうに繋がっているそこを揺らした。
「!あ・・!」
「質問にだけ答えろ。他の奴の名前なんか出すな。夕べよく眠れなかったんだろう?」
「あ・・っ・なんで・・そん・・や・ぁ」
「言えよ。どうしてだ?」
 なぜそんな事を聞きたがるのか。けれどそう思う側から有栖は自分も同じ事を聞きたいと思っていた。火村はどうだったのか。会えないと電話をかけてきた男は夕べどう過ごしたのか。もしかして少しでも思い出して、気にかけてくれたのだろうか。こんな考えはひどくらしくなく、何だか情けないような、女々しいような気持ちもするけれど、それでも聞きたいと思うこの気持ちは何なのだろう。
「・・じ・・自分の方こそどうなんや!」
「俺か?俺はそりゃもうぐっすりと」
「・・・・・・・」
「眠れたら、無理して途中下車してまで来るわきゃねぇだろう?」
「・・っあ・あ・あぁ!・・」
 言った途端大きく体を揺さぶられて有栖は喘いだ。
 思わず伸ばした指に絡む指。
「・・ひ・火村・・俺も・・あ・・俺・・」
「うん?」
 荒い息。ドクドクと早鐘のように打つ鼓動。
「人間て・・ほんまに・・慣れる生き物なんやなぁ」
「・・・同感だ」
 そうして次の瞬間、二人はほとんど同時にその熱を弾けさせた。