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カラカラとガタガタの間のような音がする。
向かい側の家が雨戸を開けたのだとアリスは布団の中で半分眠ったままそう思う。とすれば、今は5時を少し過ぎたところ。もう少し眠る事が出来る。
つらつらとそう考えながら、有栖は隣に眠る男の顔を見た。
そう、ここは自分の家ではなく、彼 江神二郎の部屋だ。
それなのに向かい側の家の雨戸が何時に開くのか判る事が今更のようにおかしくて、有栖はクスリと笑いを漏らしてしまった。普通はそんな事など判る筈がない。ようするにそれだけ彼の部屋にきて、それだけ泊まっているという事である。
だから判るのは雨戸の事だけでなく、もうすぐ新聞配達の自転車の音が聞こえて、ガタンガタンと郵便受けにそれを入れる音がするだろうという予測も出来るし、同じような時間にカチャカチャと音を立てて牛乳配達が来る事も知っている。
全て、彼の部屋で・・・彼の隣で聞いた音だ。
その途端。
「アリス・・?」
聞こえてきた声。
「どないしたんや?」
いつも通りの穏やかで優しい声に有栖はフワリと笑みを浮かべた。
「何でもないです。何だかふと目が覚めて・・」
と、話をした瞬間、ふわふわと浮かんだ白い息に有栖は思わず言葉を止めてしまった。そうして次にほぉっと長く息を吐き出してみる。
暗がりの中、先程よりもはっきりと浮かんだ白い息。
「・・凄い白い・・」
子供のような有栖の言葉に江神はクスリと笑った。
「風邪ひくで」
言いながら回された腕がそっと身体を引き寄せる。伝わってくる温かなぬくもり。
「もう少し眠り」
「はい・・」
寒い寒い冬の朝。
年上の恋人の腕の中で有栖はひどく幸せな気持ちで目を閉じた。
超SS。それでは来年もよろしくお付き合いください。 プラウザで戻ってね。 作家編『冬の夜』も見る