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冬の夜

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「やっぱり星を見るのは冬やな」 
 ベランダから空を見上げて有栖はそう言った。食後に飲んだビールで火照った身体に外の空気はひどく気持ちがいい。
「ばか言ってないでサッサと窓を閉めろよ。暖房をいれて窓を開けるなんざ不経済極まりない。第一風邪をひくだろうが」
 だがしかし、その風流を恋人は全く解さず、呆れたようにそう返す。それに有栖ははぁとわざとらしい溜め息をついて部屋の中を振り返った。
「とても元天体少年だったとは思えん発言やな。見てみぃ、ほら。綺麗やで」
「近所迷惑だぞ」
「いいから!早く来いって。ほらあれ、あの砂時計みたいなん。あれがオリオン座やろ?」
 こうなると酔っ払いの強みだ。普段は全く星など興味がないくせに「情緒がない」だの「この星の素晴らしさが判らないなんて」だの、おそらく火村が行くまでそんな風に言っているに違いない。
「どれだよ、にわか天体学者」
 諦めて火村はベランダに出た。
「あれや、あれあれ」
 言われた言葉をものともせず、有栖はニコニコと笑って夜空を指差した。言われた方向を見てみると、確かにその中心の3つ並んだ星が見えている。冬の『冴え冴えとした』という言葉の似合う夜空の中にそれはとても良く映えていた。
「綺麗やろ?」
 向けられた満足な笑み。
「で?」
「へ?」
「冬の星座は他にも沢山あるぜ?後は?」 ベランダまで来させたのだキチンと説明をしてもらおうじゃないか。そんな火村の態度に有栖は一瞬押し黙ってもう一度空を見上げた。だがその他の星座が判る筈もない。
「えーっと・・オリオン座」
「それは聞いた」
「・・・・あ、そうや、どこかにひしゃくの形が。あれかなー。北斗七星でこぐま座・・その横の辺りにおおくま座がある筈でぇ・・それから他には・・えーと・・カニは冬に美味いけど、夏の星座やしぃ」
 なにやらおかしな方向に行き始めた話に火村はキャメルを取り出しながらクスリと笑って火を点けた。
「・・・結局、食い気かよ」
「やかましい!」
「なんだよ、お前が言ったんだろう?そうだなカニときたら、やっぱりエビとか鯛とか、ああでも鍋なら鱈、フグやアンコウか」
「・・・・・何の話や?」
「そりゃあ勿論、有栖川先生の心の声を具体化してみたのさ」
 ニヤニヤと笑う顔が憎らしい。
 その途端。
「ハ・クション!」
 飛び出した派手なくしゃみ。そして。
「リベンジや!」
「ああ?」
「この次にはきっちり星座を覚えて君に教えたるからな!」
「・・・・・・」
そうくるか。
 鼻の頭を赤くして、いかにも寒そうな顔をして睨みつけてくる愛おしい恋人。
 そうして火村はその瞬間、冷たくなっているその肩を抱き寄せながらひどく幸せそうな笑みを浮かべて「期待してるぜ」と囁いた。


超SS。それでは皆様良いお年を。

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