Week 7

「・・・・っ・・」
 肌を滑る少しだけ冷たい手。
 その手の後を辿るように落とされる口づけにビクリと震える身体を宥めては又同じ事を繰り返す。そんな有栖に火村はクスリと小さな笑いを零した。
「そんなに緊張されるとこっちまで調子が狂う」
「う・うるさい!そんなん言うたかてこっちにだって都合ってもんが・・っ・あっ!」
 胸元に触れた長い指。
 それに思わず声を漏らした有栖を見て火村は意地の悪い笑いを浮かべた。
「ここにきてどんな都合があるってぇんだ?寝ようって言ったのはお前の方だぜ?」
 そう。ベッドに入って、服を脱ぐ、脱がせるという事でも結構大変だったのだ。これ以上有栖の言う“都合”に合わせていたら夜が明ける。
「そ・れは・・そうやけど・・あっ・・!」
 しどろもどろに返ってきた答えを聞きながら、火村はたった今触れたばかりの胸に唇を寄せた。途端に有栖の口から先程よりも大きな声が上がる。ついで泣き出しそうに歪められた顔。
「・・そんな顔をするなよ」
「こんな・顔をさせとるのは誰や!」
「ばか。言ってる意味が違う。そんな顔をされると加減が出来なくなる」
 言いながらも肌をまさぐる手は止まらない。
「あ・・あほ・・!・ん・ゃ・・」
 ジワリと視界が滲む。
「ん・・ぁ・はぁ・・」
「・・アリス」
息が上がる。
「・・・っ・・ふ・」
顔が、身体が熱くなって有栖は自分の気持ちとは裏腹に落ちる、到底自分ものとは思えない細い声に本気で泣き出したくなってしまった。
 確かに火村の言う通り“寝よう”と言ったのは自分だ。
 だけど、でも、まさかこんな風になるとは思わなかったのだ。こんな風に触れられるだけで鼓動が早まって恥ずかしくて、死にたくなるなんて思ってもみなかった。
「やぁ・・!」
 そこここに甘い痛みを残して火村の唇が触れてゆく。
「・・ぁ・・っ」
 その度に噛み殺し損ねる声が嫌で、有栖はグッと唇を噛み締めてしまった。それに気付いて火村は小さく眉を寄せると、そっとその唇に長い指を寄せた。
「声を殺すな」
「い・嫌や・・」
「唇が切れるだろう?」
「切れてもいい!」
「いいわけないだろう?」
「いいったらいい!気にするな」
「ばか。血だらけの唇に口づけるなんて御免だぜ」
 そう言うと火村はまだ何か言いたそうな有栖の唇を自分の唇で塞いでしまった。そうして次の瞬間、脇腹あたりを彷徨っていた手を熱くなりかけている有栖のそれへと伸ばした。
「 !!!」
 途端に大きく震えた身体。
 けれど構わず火村はそこに絡めた指を動かし始める。
「い・・いやゃ!!・あ・・火村っ・・や・・あぁぁ」 引きつったような声を上げる赤い顔。
「や・・やぁ!・・やめ・・」
「・・そう。声を上げていいから」
「ちが・そうやなくて・・あ・あ・」
 ビクビクと震える身体と羞恥に耐えきれずに落ちる涙を火村は見つめていた。
「・・・ねが・・離せ・・は・」
 言いながら引き離そうとする手は、けれどその力はなく反対に縋り付いているようにさえ見える。
 苦しいほどに上がる息。
 きりもなく零れる涙。
 熱くなる肌。
「・・・出るか・・ら・・離して・・」
ドクドクと耳の奥で早鐘のような鼓動が響く。
「火村っ・・達く・・!」
「このままでいい」
いっそ死んでしまいたいと思って口にした言葉をけれど火村は一瞬のうちに打ち消してしまう。
「嫌や!」
「どうして?」
「どう・・って・・」
「出しちまいな」
ヒクンと顔が引きつる。
「・・・・・・・なんで・・」
「苦しいだろ?このままじゃ。それにな、アリス」
途切れた言葉に震える身体。
 限界が目の前まで来ていると有栖は思った。
 身体が悲鳴を上げている。
 おそらく涙でグシャグシャであろう顔を有栖は目の前の男に向けた。
「・・それにアリス。こんな事が恥ずかしいなんて思っているなら大間違いだぜ?」
「・・・火村?」
何を言っているのだろう。
そんな有栖に向かって火村はひどく鮮やかな笑みを浮かべて口を開いた。
「あの日も、今日も、寝ようと言ったのはお前だ。それにさっきも言っただろう?そんな顔は煽るだけだって」
「な・・に・・・・やぁぁぁ!!!」
 言葉と同時に熱くなっていたそれを躊躇いもなく口に含まれて有栖は悲鳴にも似た声を上げた。
「いや・・そんなん嫌・・やめ・・火村ぁ!!」
 ガクガクと身体が震え出す。
 チカチカと目の奥が点滅する。
「ねが・・はな・・あぁ・あ・あ・」
 声がうまく出せなくて、苦しくて、熱くて、もどかしい。
「・・達っていいぜ・・」
「!!・あ・あぁぁぁっ!」
 そうして次の瞬間、熱を弾けさせた有栖の頬を新たな涙が伝って流れ落ちた ……


何て言うか・・・いや、Hに関しては何も語りたくないです・・・。