そのままのきみがすき  マックス・ルケード 作 / セルジオ・マルティネス 絵  
〜頑張りやさんへのプレゼント〜

20世紀最後のクリスマス・イブの夜、私達家族は病院の手術待合室で過ごしました。

こんなクリスマスの前夜は、後にも先にもこの時限りの事として心に残る忘れられないひと時で 大切な思い出になっています。

すでに院内の消灯時間も過ぎていましたが、心優しい婦長さん方は、 私達親子のために見て見ぬふりをして下さった事を深く感謝せずにはいられません。 主人は年末の仕事で帰宅が遅くなりそれでも、家で一人寂しくしている娘を連れて同じ病院で 入院している私と息子のところへクリスマスを祝うため来てくれました。

 ひんやりとした手術待合室のテーブルにはクリスマスケーキとシャンメリー。 家族は体を寄せ合ってお互いのぬくもりを感じながら本当にささやかなパーティをしたのです。
その時、私から子どもへの贈り物が「そのままのきみがすき」という絵本でした。

 ― ある王様が、身寄りのない孤児を本当の自分の子どもとして迎えようとします。 その愛情に対して、どんな事をして答えたらいいか悩む子どもに、王様は言います。 「おまえは、とびっきりのおくりものを私にくれたんだよ。やさしい心を…そのままでいいのだよ。 そのままのきみが大好きだよ。」

その年の秋、私は教育委員会共催講座の企画運営を背負い、走り廻る日々でした。 その忙しい最中の事故でした。100冊ほどの本を無理に抱えて階段を昇降したために起きた ボランティア中の事故でした。

事故当時から、安静にしなければならなかったのですが多忙のため無理を重ね悪化し 、精密検査の結果「半月板断裂」と診断され手術入院するはめになりました。

その入院当日に息子が「おなかが痛い」と苦しみだし、共に病院で診てもらったところ「腹膜炎」 と診断され緊急入院することになり、奇しくも親子同時に手術入院となったのです。 そして、私の入院がなかったら息子の命は取り返しのつかない事になっていたかもしれない事も 後程でわかりました。

貴重な命のために、こうして親子共に神様が同じ入院生活と親子の絆を用意して下さったのだと 思いました。

そんな我が子への心からのプレゼントのつもりでしたが…

退院時、「半年は歩けない現実」を知った時はさすがに辛くて動揺は隠しきれませんでした。

そして、久しぶりの我が家に帰り子供に贈った絵本を読んでいる内、堪えきれないものが溢れ出てきて しまいました。「そんなに頑張らなくてもいいのですよ。ありのままのあなたでいればいいのです。」

絵本から聞こえてくるメッセージにただ、ただ、泣きました。

これは、実は私自身への贈り物だったのかもしれません。

そして、少女時代から頑張りやさんだった私への、あたたかい贈り物になりました。

この時から私は「頑張る」という気持ちの肩の荷を時々降ろすようになったと感じています。

(え)

空色勾玉  荻原 規子 作

私の娘が自己主張をもち、大人びてきた高学年の頃のことです。(幼少時、服はピンクばかり着せられた反動なのか、 青系を好んで身につけるようになっていました。)

私はすっかり忘れていたのですが、「子どもの本展」というようなイベント会場へ行った際、 彼女自身が気に入って初めて買った本。― それが、『空色勾玉』 きれいな空色の表紙カバーに惹かれたのかもしれません。

その本を書棚ではなく、机の引き出しに入れて、いつでも手にとれるようにしていたようです。 ―そんなわけで、私はすっかり、この本の存在を忘れていました。

ある時、友人の家で同じ本を見て、彼女の“宝物”に気づきました。

娘は、ちょうど学校で古事記を学び、古代の歴史に興味をもち始めたこともあって、 タイムリーだったのでしょう。 そして、(体に似合わず?)繊細な感性に入りこんできた村娘、 狭也の勾玉にまつわるファンタジーの世界が彼女をとりこにしていたようです。

-ひとりは「闇」の血筋に生まれ、輝く不死の「光」にこがれた。
ひとりは「光」の宮の奥、縛められて「闇」を夢見た。−

いつとは知れぬ昔・・・神と人がまだ同じ世界に存在していた古代の日本。
光と闇がせめぎあう戦乱の時代。

輝の神を祭る村に拾われ育てられ静かに日々を送る村娘、狭也に、ある日、旅芸人から 「お前は闇の女神の巫女姫、水の乙女の生まれ変わりだ。」と言われ空色の勾玉を渡されます。 狭也は突然告げられた真実に、自分がそのような闇の一族ではないと否定して認めようとしません。

運命から逃れようと憧れの「輝」の宮、まほろばに救いを求めた狭也。
しかし、都で待っていたのは絶望。そして、神殿に縛められ宝剣「大蛇の剣」を守りながら 闇を夢見た輝の大御神の末子、稚羽矢との偶然の出会いは、 大きく狭也の運命を変えていくことに…。

この壮大なるファンタジーにのめり込み、その後、勾玉シリーズ(三部作)の『白鳥異伝』 『薄紅天女』へと続いていったのは言うまでもありません。

彼女に遅れて読み始めた私も、いつのまにか十代の乙女になって涙を流し、 勾玉の世界から抜け出せないでいました。

史跡旅行の土産店で、見つけた勾玉のペンダントに、喜んでとびついた我が娘は、 しばらくの間それを身につけていました。その色は、もちろん―空色
満面の笑みを浮かべて、誇らしげな娘の胸元で光る“空色勾玉” を私は横目で羨ましく見ていました…。

(え)