はてしない物語  ミヒャエル・エンデ 作

 幼い頃に憧れたのは「シンデレラ」や「白雪姫」よりも「みにくいあひるのこ」でした。『あひるのこ』のように、いつか大きくなったら『白鳥』になって飛ぶんだ、と夢見ていました。
 そんな私は一冊の本と出合います。少年バスチアンが手にした本―――『はてしない物語』です。彼が手にした本と同じ装丁。その事にドキドキしました。まるで彼と同じ世界にいるかのよう。
 その本を通して、私はバスチアンと共にアトレーユの旅を見ました。そして、一緒にファンタジーエンに行ける気がしたのです。
 けれども、そんなことがあるはるはずも無く…。
 美しい変化を遂げたバスチアンが羨ましく、かけがえの無い友人をも得たバスチアンが羨ましいと思ったものです。
 『白鳥』になることができたバスチアンは、万能の力―――アウリンを手にしました。その力を使用するたびに彼の世界での記憶を失ってしまう、と言うものでしたけれども。当時の私にとってはそれでも魅力的でした。

 本当に―――
 全ての記憶を失ったら、用無しと捨て去られてしまうのに。
 夢と希望に満ちた世界での現実。それに自分は耐えられたでしょうか?

 アトレーユは言います。偽りの姿を捨てたバスチアンへ。
「それが本当の君なんだね。そっちの方が君らしいや」
 例え望みどおりに『白鳥』になれたとしても、それが偽りであるのなら意味がありません。どんなに醜く感じられても、それが自分。今ならわかります。

(な)

※おまけ
この本は、岩波少年文庫としても新しく出版されました。価格も手頃で、それはそれでいいのかもしれませんが、
私は、単行本の装丁にこだわりたい。「表紙はあかがね色の絹ばりで、動かすと光る本」 この重厚な装丁が頬擦りしてみたくなるほど素晴らしい。そして、この装丁だからこそバスチアンと共感する喜びが増すのではないでしょうか。

※おまけのおまけ
「はてしない物語」を読んだことのある方は「八月の博物館」瀬名秀明 作 も読んでみて下さい。

(え)

 

子どもがはじめてであう絵本  ディック・ブルーナ 作/ いしいももこ 訳

 昨今は、赤ちゃん絵本が多数出版され、21世紀になってからブックスタートが全国市町村で取り入れられるようになったここ2,3年は著しく、書店でも0歳向けのかわいい絵本が並んでいるのを見かけます。でも、私の時代は「ちいさなうさこちゃん」が赤ちゃんの絵本でした。
  1.ちいさなうさこちゃん 2.うさこちゃんとうみ 3.うさこちゃんとどうぶつえん 4.ゆきのひのうさこちゃんと四季に応じて与えられるように4冊1セット箱入りを大切に我が子に与えていました。
今ではボロボロになるほど何度もくりかえし読み、読まされたものです。とは言え、赤ちゃん絵本としては文字も多くて0歳児には難しいと思います。確かに、我が子も理解できるようになったのは1歳半過ぎの頃だったと記憶しています。それでも、結婚のお祝いとして友にリクエストしてまで、もらった絵本ですから、「子どもが生まれるまえからであっていた絵本」でしょうか。


 赤ちゃんは生まれたばかりの時は白黒で抱っこした距離50センチくらいしか見えないといいます。その次に赤、青、緑、黄色がはっきりわかるようになるそうです。そうして考えてみると「ちいさなうさこちゃん」の色使いは理に適っています。我が子は2才頃、信号がとても好きでした。車に乗っては信号を見るたび「ペッ、ペッ」と言って興奮していました。お絵かきも信号ばかり描いていて、私にも「信号を描いて」とよくせがまれたものです。簡単なのですが1度描くと何度も描かされていいかげんこちらは嫌になってくる時期がありました。このことは長年、謎でした。この時期にこの子がなぜ、執拗に信号に興味をもったか。
「ちいさなうさこちゃん」の絵本の扉をめくった白い見返しにも信号機がたくさん描かれています。我が子が描いた落書きの信号はうさこちゃんそのものだったと後になってわかりました。「お母さんがよくうさこちゃんを読んでくれて、あの色の印象が忘れられなかった」と10年以上も経ってから教えてくれたものです。


 うさこちゃんは体が横を向いていても、顔は前を見ています。「子どもは真直ぐ何にでも向かってくる。だから同じようにきちんと向かい合っていたい、向かい合った絵本を創り出していきたい」と、作者ブルーナーは言われます。子どもの心をきちんと見つめるという誠実で真摯な彼の姿勢がこんなにも愛され続けてきたのでしょう。そして、子どもは字が読めなくても絵を読むということをボランティア活動の中から学びました。きっと絵を読んでいたのでしょうね。


 そのオランダ生まれのうさこちゃんも2005年6月21日に満50歳を迎えました。半世紀も愛され続け、現代っ子はこの絵本を「ミッフィーちゃんだ」と言いますが、あえて私は「うさこちゃん!」と大人げもなく強調して言い返します。「ミッフィーちゃん」とされているのも確かですからしょうがありませんが「ちいさなうさこちゃん」とした石井桃子さんの訳が、言葉がいいから日本でもこれまで愛されてきたのではと勝手に判断しています。

 「ミッフィー」は「ちいさなうさぎちゃん」という意味だそうですから納得いきますが、孫の世代にも「ちいさなうさこちゃん」と、私はこだわりをもって読んであげたいなと思います。
  

(え)

※おまけ
うさこちゃん生誕50年を記念して、「うさこちゃんとあかちゃんセット(全2冊) 」が 松岡 享子さんの訳で福音館書店から、この度出版されました。松岡さんの訳!早速手にとってみたくなりました。

(え)