幼い頃に憧れたのは「シンデレラ」や「白雪姫」よりも「みにくいあひるのこ」でした。『あひるのこ』のように、いつか大きくなったら『白鳥』になって飛ぶんだ、と夢見ていました。
そんな私は一冊の本と出合います。少年バスチアンが手にした本―――『はてしない物語』です。彼が手にした本と同じ装丁。その事にドキドキしました。まるで彼と同じ世界にいるかのよう。
その本を通して、私はバスチアンと共にアトレーユの旅を見ました。そして、一緒にファンタジーエンに行ける気がしたのです。
けれども、そんなことがあるはるはずも無く…。
美しい変化を遂げたバスチアンが羨ましく、かけがえの無い友人をも得たバスチアンが羨ましいと思ったものです。
『白鳥』になることができたバスチアンは、万能の力―――アウリンを手にしました。その力を使用するたびに彼の世界での記憶を失ってしまう、と言うものでしたけれども。当時の私にとってはそれでも魅力的でした。
本当に―――?
全ての記憶を失ったら、用無しと捨て去られてしまうのに。
夢と希望に満ちた世界での現実。それに自分は耐えられたでしょうか?
アトレーユは言います。偽りの姿を捨てたバスチアンへ。
「それが本当の君なんだね。そっちの方が君らしいや」
例え望みどおりに『白鳥』になれたとしても、それが偽りであるのなら意味がありません。どんなに醜く感じられても、それが自分。今ならわかります。
(な)
※おまけ
この本は、岩波少年文庫としても新しく出版されました。価格も手頃で、それはそれでいいのかもしれませんが、
私は、単行本の装丁にこだわりたい。「表紙はあかがね色の絹ばりで、動かすと光る本」 この重厚な装丁が頬擦りしてみたくなるほど素晴らしい。そして、この装丁だからこそバスチアンと共感する喜びが増すのではないでしょうか。
※おまけのおまけ
「はてしない物語」を読んだことのある方は「八月の博物館」瀬名秀明 作 も読んでみて下さい。
(え)
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