加藤光雄歯科診療室 〒155-0033 東京都世田谷区代田1−1−5 Tel: 03-5433-1586                                              Mail:mkdental@gate01.com

院長紹介・ひとりごと(入れ歯の話)







名前 加藤光雄(かとう みつお)
出身 広島県呉市(昭和33年6月29日生まれ)、戌年、六白金星、O型
経歴 昭和52年広島県修道高等学校卒業
昭和59年東京医科歯科大学歯学部卒業、歯科医師免許取得(歯科医籍番号92683)
昭和59年東京医科歯科大学歯学部第一補綴学教室(部分床義歯学)入局
昭和63年東京医科歯科大学大学院修了、歯学博士(歯科補綴学)
昭和63年東京医科歯科大学歯学部付属病院医員
平成4年東京医科歯科大学歯学部文部教官助手
平成8年日本補綴歯科学会認定医
平成10年東京医科歯科大学歯学部付属歯科衛生士学校非常勤講師
平成12年東京医科歯科大学歯学部付属病院義歯外来外来医長
平成13年日本補綴歯科学会指導医
平成13年加藤光雄歯科診療室開設
平成14年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食機能構築学非常勤講師
所属学会 日本補綴歯科学会
資格 日本補綴歯科学会専門医 同指導医
モットー ◎歯科医学で解明、確立されていない治療法は、担当患者さんで試さない(大学等の研究機関で行うことであるから)
◎大学にて学生諸兄、新卒歯科医師を指導していた内容よりもレベルの低い診療はしない(後輩に申し訳がたたないから)


「歯磨き」って?
 歯は、磨かないで下さい。まず、掃除をしてください。きれいになった後ならば、磨くでも、匂いを付けるでも何でもして下さって結構です。掃除の仕方がわからない時はお尋ねください。日本語には歯をきれいにするという意味の言葉は「歯磨き」しかないのです。汚れがついているものをきれいにする時にいきなり「磨く」という言葉を使うのは、歯と革靴くらいしかありません。革靴は日本古来の生活習慣には存在しません。それと同じく、われわれ日本人は古来より、歯をきれいにするという概念を持ち合わせていない民族なのです。歯は不浄なもので清める対象であり、道具は楊枝でした。歯磨きは明治以降の、外来の文化の猿真似ということでしょうか。
 虫歯、歯周病の対策としては、もともと歯は、ピカピカに磨き上げる必要はない物です。したがって「歯磨き粉」はいりません。歯磨き粉の多くには、「医薬部外品」と書いてありますがこれは、「医薬品」ではないという意味です。したがって「効かない」と同義語です。薬効成分は含まれていますが、必要な濃度が含まれていないので、効きません。どの歯磨きがよく効くのだろうかと悩む必要はありません。効きません。薬液を推奨する歯科医師もいますが、未だ歯科医学上の有効性は証明できていません。
 歯についている汚れ=歯垢は、菌であり、たんぱく質汚れです。したがって、水では汚れは落ちません。ジェット水流でもきれいにできません。また、界面活性剤や洗剤も、油汚れではないわけですから効果がありません。機械的に汚れをこそぎ落とすしかないのです。歯ブラシが最も効果的なのはこのためです。
 昭和40年代には歯ブラシで歯をきれいにする研究が盛んに行われ、引き続き昭和50年代には手用歯ブラシの学術的な開発が進みました。これにより手用歯ブラシは完成を見ました(これ以後、手用歯ブラシの新製品が世に出る余地は学術的にはあり得ません)。昭和60年代、平成にはいって電動歯ブラシが登場し、平成10年代に超音波歯ブラシが登場しますが、ブラシと歯の表面の歯垢の関係は、当然、何も変わりません。
 電動歯ブラシはふつうの歯ブラシよりも短時間で汚れを落とします。ただし、ブラシがさわったところだけがきれいになるのは、どちらも同じです。問題はどちらが隅々までブラシを届かせることができるかということです。軍配はふつうの手用歯ブラシに上がります。結果として最終的には手用歯ブラシの方がきれいにできます。歯ブラシを使う時間はかかりますけれど。
 超音波歯ブラシには、もっとしっかりしたデータを明示して欲しいものです。超音波洗浄機ですら、家庭用の出力の弱いものでは医療用の器具洗浄には用を成さないのです。歯垢を超音波で除去するには、かなりのエネルギーを加えなくてはならず、相当な痛みを伴うものと想像されます。めがねの汚れを落としてくれる超音波洗浄機に指を漬けてみてください。結構、チリチリします。口の中を超音波洗浄機の状態にしたなら、同じくチリチリすることでしょう。言葉のイメージだけで商品を売り込むのは詐欺まがいの行為です。
 歯ブラシ、歯磨きに関しては簡単な方法、楽な、効率のよい方法はありません。あればこの場でお教えします。あきらめて、時間をかけましょう。時間をかけることを楽しむほどの自覚とゆとりがほしいものです。


 入れ歯の話、その1(入れ歯で困っている方のために)

 入れ歯ってそんなにどうしようもない代物ですか?

 かなり昔から人は歯がなくなったら入れ歯を入れていました。もちろん入れていない人もありました。入れてないと格好が悪い、入れていないと食べられない。さまざまな理由で現在では入れ歯を入れている人はたくさんいらっしゃいます。では、多くの方々がみんな、入れ歯で苦労しているでしょうか?
 当然、入れ歯で何も不自由なく生活している方のほうが多いのです。ではなぜ、あなたの入れ歯は具合が悪いのでしょうか?
 答えはただひとつ、調整が足りないからです。「入れ歯とはこんなものです、我慢して使っているうちに慣れますよ。」と歯科医師に言われたことがおありでしょう。嘘です。慣れません。少なくとも「我慢して」いるうちは決して慣れません。「慣れ」は自然に生じてこそ「慣れ」であり、我慢と辛抱の賜物ではありません。痛いと慣れないのです。あなたの担当の歯科医師がそのように言って、まだあなたの義歯の具合が悪いなら、その歯科医師は入れ歯の調整能力が足りないことを自分で認めたことになります。
 入れ歯の調整のノウハウはあまりに多く、すべての歯科医師がこれをこなせるものではありません。良き指導者に恵まれて10年近く修行を積んで初めて身につくものです。それくらいになってやっと、歯科医師は自分の判断で入れ歯の設計ができるようになります。千差万別の患者さんのお口の状態に合う入れ歯の設計が自由自在にできるようになって初めて、出来上がった入れ歯の調整もきちんとできるようになるのです。型どりだけして、入れ歯の設計は模型を渡した歯科技工士に一任している歯科医師がいかに多いことか。入れ歯の設計ができない歯科医師が増えるからインプラント治療の件数が増えてしまうのです。
 あなたの担当の歯科医師が入れ歯を得意としているかどうかは、できた入れ歯を何度も調整してくれるかどうかでわかります。入れ歯が得意な歯科医師は、何度でも調整してくれます。そして1回ごとにあなたの具合の悪さを解決してくれます。たった1,2回目の調整の時に、まだ具合が悪いのに「じきに慣れますよ」と告げる歯科医師には残念ながらそれ以上は期待できません。入れ歯を入れる前から「入れ歯よりは、」とインプラントを薦める歯科医師は、入れ歯の治療ができないからかもしれないのです。


 入れ歯の話、その2(入れ歯の種類と目的)

 歯が何本か残っていれば、部分入れ歯。取り外し式、可撤性(かてつせい)と言います。食後ははずして掃除をします。
 歯が1本も残っていなければ、総入れ歯。これも可撤性。同じく、食後ははずして掃除をします。
 欧米人には、「はずして掃除できるなんて、なんて便利な!」と感じる人もあるようですが、日本人は概ね「面倒くさい」と思うようです。しかし、口の中にある自分の歯、かぶせた歯をきれいにすることの方がずっと面倒くさいはずです。インプラントはさらに厳密にきれいにしていかなくてはなりません。このことからもわかるように、日本人は自分の歯を大切にしません。これは欧米人が肉食主体であるのに対し、日本人が穀物主体の食文化であることによります(歯の治療費が米国並みに跳ね上がったら、どなたもご自分の歯をもっと大切にするようになるでしょうが、)。雑炊にすれば歯がなくても栄養の摂取ができるからです。でも、「食べる」時に「おいしく」ないと、イヤですね。噛みしめないと刺身の旨味はわからないものです。歯ごたえは味覚を大きく左右します。
 年齢とともに摂取するべき栄養は少なくてもすむようになるとするならば、年齢とともに食べ物を噛む能力は少なくてもすむことになります。だからというわけではありませんが、可撤性の義歯は明らかに本来の自分の歯で噛むよりも噛む能力は劣ります。噛む力を支える組織(残った歯や歯茎の肉)に負担をかけすぎないように、実はわざと能力を落として製作しているのです。自分の歯がなくなってしまったのに、人工の歯で元通りに噛めるようにすることが、正しい好ましい歯科治療であるとは限りません。一人一人の条件に合わせた対応こそが真に優れた治療と言えます。
 噛む能力は落としておいて、それを補うようにじっくりと時間と回数をかけて噛みしめていただくことで、食の喜びを保ちつつ歯茎や残った歯に負担をかけない。これが義歯の真骨頂なのです。内科医は病状で薬を加減します。歯科医は噛む力とそれを受け止める能力をコントロールします。インプラント(人工歯根)が決定的に劣っているのは、感染のリスクが高まるという免疫学的な欠点よりも、あるいは天然の歯にあるショックアブソーバーが無いという解剖学的力学的な欠点よりも、今加わっている力量のモニターが働かないという運動生理学的な欠点です。
 部分入れ歯を使う場合は、人によって歯のなくなり方が違うわけです。上あご、下あごで親知らずをのぞいて全部で28本の歯のなくなり方のパターンは2の28乗通り、268,435,456通りです(元々ない方もありますが親知らずまで全部含めると32本の歯があり、パターンは2の32乗通り、4,294,967,296通りです)。あなたも約2億6千万通りのパターンの中の一つなのです。あなたの担当の歯科医師は、あなたのパターンに最適な歯科治療のプランを立ててくれていますか?千差万別のあなたのお口の環境を、例えば抜歯して担当歯科医師にとって都合のいいワンパターンにしてから、ワンパターンの治療プランを「これがベストです」と提示されたりしていませんか?ご自分の健康を守るのは、正しい知識だけです。不完全な知識だけでは、その弱みに付け込まれてだまされますので御注意下さい。


 入れ歯の話、その3(入れ歯の材料と製法)

 歯が何本か残っているときの部分入れ歯にも、ゆっくりと技術革新の波は訪れています。ただ、残念なことに、歯科医師が無知故に新素材に飛びつく事例がふえていることは残念です。金属が目立たないようにという理由で、全体を樹脂で作製した物は、長期安定した咬合を維持できませんが、健康保険の適用になりませんので治療の費用がかかる分、一部の歯科医院では経営安定に寄与しています。これらのソフト○○とかノンクラスプ○○とか呼ばれる樹脂製の義歯は、最先端の義歯材料ではなく、さかのぼれば10年ほど前になりますが、東南アジアのある国での「安い」歯科治療での治療方法の中に既に存在します。小院に受診されておいでの複数の患者さんで、彼の地でこの治療を受けておられた方の口腔内は、この義歯が原因の一端であると解釈せざるを得ない、惨憺たる状況にありました。その後に材料の進歩・改良はあったでしょうが、背景の学理は確立されないままですので、現時点でも健康被害のリスクのある歯科材料と治療方法と考えておかなくてはなりません。
 最近、精密義歯と銘打った診療を売り物にしている歯科医院のHP(ホームページ)が散見されます。精密な型取り、精密な咬合記録、精密な歯科技工、等々をアピールしています。ちょっとまて、これらはすべて、義歯の治療の基本中の基本の事項です。一部が精密を謳うということは、歯科医療界全体で義歯の治療はいい加減な型取りや記録や技工しかやってこなかったと言っていることになります。これまで精密な設計・前処置・型取り・記録・技工・調整しかやってこなかった誠実な歯科医師、歯科技工士に対する最大の冒涜です。
 入れ歯は、進歩していますが、完成された治療技術です。歯科医師にとっては、その治療技術の習得には、師匠との出会いと長い年月が必要です。材料業者の企画する講習会を数回受ければ身につくような浅いものではありません。さらに歯科医師個人の濃密な臨床経験が重要です。すなわち、患者さんとの出会いが大切なのです。文字通り、義歯治療は、歯科医師のほうが患者さんに鍛えて頂いているわけです。