遺言書作成のススメ
相続の際、遺言書がなければ必ずと言っていいほどトラブルになります。しかし、依然としてこの日本では遺言書のない状態での相続が多いのが現実です。かと言って、遺言書があったら絶対に大丈夫というものでもありません。トラブルを防止するためには、適切な方式で、適切な内容の遺言書を書いておく必要があります。
人は、自分にもしものことがあった場合、残った家族には協力し支え合ってその後の人生を生きていってほしいと誰もが思うものです。しかし、いざ「遺言」というところまではなかなか踏み込めない。その原因は様々ですが、主なものには次のような理由があります。
遺言書を書かないことの理由としては、「縁起が悪い」「遺言書に書くほど財産はない」「そもそもうちの家族はみんな仲が良いから大丈夫」というものが大半です。しかし、結論から申し上げれば、
・相続のトラブルに
財産の多い少ないは関係ない。
・
「遺言(ゆいごん)」は「遺書(いしょ)」ではない! 「遺言」は大切な家族を守る武器である。
・相続トラブルは圧倒的に兄弟間で起こるもの。
「残った家族に任せる」というのは無責任の極み。
・法定相続割合で良くても、
何を誰に相続させるかだけは決めておいてあげるべき。
です。
遺言書とは、たとえば生命保険のようなものだと私は思います。生命保険も遺言書も、残された家族が互いに支えあって、その後の人生を歩んでいく糧になるものです。そう、
遺言書とはかけがいのない家族を守るもの。縁起が悪いどころか、素晴らしいものなのです。
次に、どんな遺言書を書くべきかという点についてお話しします。
遺言書があればどんなものでも良いというわけではありません。中途半端な遺言書がかえってトラブルを誘発することさえあります。
逆に言えば、
適切な遺言書さえあれば、相続によるトラブルは確実に防ぐことができるのです。
遺言書の形式にはいくつかのものがあり、大きく分けて「普通方式」と「特別方式」というものがあります。このうち「特別方式」というものは、病気などで死亡の危急が迫っている場合や船舶遭難者等がするためのものですので、多くの人はこの形式で遺言をすることはないでしょうから、殆どの人は「普通方式」のほうをお考えいただければ結構です。
普通方式の遺言はさらに3つに分けられます。それは、
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自筆証書遺言
A
公正証書遺言
B秘密証書遺言
です。
自筆証書遺言は最も手軽な方法です。紙とペンと印鑑さえあればいつでも作成することができるので、費用もかからないというのが魅力です。しかし、
遺言書は内容どおりに確実に執行されて初めて意味があるものです。その点に一番不安を抱えているのがこの「自筆証書遺言」であるということも考えなくてはなりません。形式不備の問題や紛失の不安、あるいは間違いなく遺言者の意思に沿って書かれたものであるということを証明しにくいという弱点、また、そもそも死後に遺言書自体を見つけてもらえないかもしれず、もしも誰かに隠されたりしたら終わりです。また、相続開始後には家庭裁判所の検認を受けなければなりません。
この自筆証書遺言の不安を払拭してくれる、確実な方式は
「公正証書遺言」です。公正証書遺言は公証人と2人の証人の立ち会いのもとに作成するものですので、
証拠能力が非常に高いものになります。自筆証書遺言に比べて、公証人や証人の手数料などもかかりますので、費用はそれなりに掛かってしまいますが、
自筆証書遺言が持つような不安はほぼありません。また、
家庭裁判所の検認手続も不要です。ただし、一度作った遺言書を書きなおすのにはまた費用と時間と労力がかかってしまうため、書き直しにくいという弱点はあります。
したがって、これからまだまだ状況が変わるかもしれなく、遺言書を書きなおすことが十分にありうるという方は自筆証書遺言の形式で、もうおそらく中身を変えることはないという方は公正証書遺言で遺言書をお作りになるのが良いでしょう。
一応秘密証書遺言にも触れておきましょう。秘密証書遺言は、誰にも内容を知られないように作成するものであり、公正証書遺言と同じく公証人と2人の証人が関わる形式の遺言です。秘密証書遺言は署名のみ自筆でしていれば、必ずしも手書きでなくてもよく、密封した封筒に中の遺言書に捺印した印鑑で封印をして作成します。遺言書に書いた内容を誰にも知られずに作成でき、遺言書の存在が保証されるという点で自筆証書遺言よりも確実な方式ではあります。ただ、自筆証書遺言も公正証書遺言も通常は封筒に入れ、封をして作成しますし、仮に自筆証書遺言でも確実に執行される方法を担保しておけばわざわざ秘密証書遺言の形式を取らなくてもよいと思います。したがって、なにか特別な事情のない限りは、あえてこの方式を採る必要はないでしょう。
次に、内容についてお話ししておきます。
一番重要なのは、誰に何をどれだけ相続させるかを明確にするということです。相続で起こるトラブルは、すべてこの部分で起こります。このトラブルを防止するために、個々の部分をはっきりとさせるのです。
遺言書がない場合にトラブルになりやすいのは当然ですが、たとえ遺言書があっても、「何を」の部分と「どれだけ」の部分が曖昧だとトラブルに発展します。遺言書の内容を決定するにあたっては、この部分を曖昧にしないように注意しましょう。
ただし、
相続には「遺留分」という規定があることにも十分に注意してください。「遺留分」とは遺言で相続分がないものとされた人が生活に困窮しないようにするために定められた制度で、法定相続分に対して一定の割合で相続する権利を保証したものです。この遺留分は、配偶者(妻や夫)、直系卑属(子供や孫など)、直系尊属(両親や祖父母など)が相続人となる場合に規定されるもので、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。
せっかく遺言書で相続分を指定したにもかかわらず、ある相続人の遺留分を侵害しているとして遺留分減殺請求をされてしまえば、被相続人の遺言によった意思が実現されなくなってしまうからです。ですから、遺言書を作成する際には
遺留分を侵害しないようにすることがまず大事ですが、遺留分を侵害せざるを得ない場合には、文面等にも十分に気を配るべきです。
遺言書を書くべきでない人というのはいないと私は考えます。
財産を持ったら、あるいは家族を持ったら誰もが必ず書いておくべきです。ただ逆に、特に急いで遺言書を書いておかなければならない人は存在します。簡単に挙げてみましょう。
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法定相続分とは違う相続をさせたい人
A
誰に何を相続させたいか、具体的に相続させたい財産が決まっている人
B
相続人以外の人に財産を譲りたい人
C
事業を起こしている人
D
自分の財産を自分の亡き後に寄付に当てたいと考えている人
E
法定相続人がいない人
F
子供がいない夫婦
G
未成年のお子さんがいる人
H
父子家庭・母子家庭のお父さん・お母さん
I
相続財産を分割させたくない場合
などです。
これらに該当する人はもちろん、該当しないという場合でも、大切なご家族にとってみれば亡くなった方が生前にどれだけ家族のことを想っていたかを知ることは決してマイナスにはならないはずです。
遺言書は、相続等の法律行為を指定するというものだけではなく、愛するご家族にあなたの想いを残してあげるという大切な側面があるステキなものだということをどうか忘れないでください。