9月19日 土曜日
午前3時半、1台の車が波止場へ入ってきた。
それを合図に僕は荷物をまとめ始める。
テントをたたみ終わる頃、
集落から汐見峠を下ってくる車のライトが連なっている。
午前4時30分、波止場の端っこにある水銀灯に灯が点る。
50台くらいある駐車帯のほぼ4分の3が埋まろうとしている。
なんだか暴走族の集会みたいだ。
午前4時40分、沖の方からボーッ、ボーッと力強く汽笛が聞こえる。
同4時55分、祭りの夜店のように妖しく光を発しながら船が入港する。
船はどうやらドッグ入りした「としま」に代わって三島村村営汽船「みしま」のようだ。
僕を見送りしてくれそうな人が見当たらないので早々に船室に入る。
ひさしぶりに虫たちに脅かされないで眠ることが出来る。
「みしま」は中之島〜平島をほぼ定刻どおり入出航して次は諏訪之瀬島だ。
ゆっくりとトイレを済ましロビーの前を通ると、おやっ?
階段の横に置いていたはずの自分の荷物が無い。
どこかに移されたのかと思いあちこち探すが見あたらない。
これはヤバイと思い船員さんに尋ねると、
どうやら平島で降ろしてしまったらしい。
というのは僕が荷物を置いた所は平島に降ろす荷物の横だったようで、
平島の札が付いていないが船員さんが気を利かして降ろしてしまったそうだ。
いろいろと話し合った結果このまま船に乗り、
諏訪之瀬島〜悪石島〜小宝島〜宝島と下って折り返し、
上り便で平島にある僕の荷物を引き取り
中之島に上陸するというオモロイことになった。
諏訪之瀬島、切石港の波止場からロープが外され
「みしま」は少しづつ島から離れてゆく。
僕は甲板の上のベンチに座り
コカコーラを飲みながらカッパえびせんをバリバリかじってそれを見ていた。
波止場では島の人たちがコンテナから荷物を出していた。
僕が先入観をもっているせいか面白そうな人たちがたくさんいる。
人の姿が小さくなるにつれて
大名竹に覆われた小高い山の向こうに
もくもくと煙を吐く御岳が黒々とした山容を見せ始めた。
何年も夢見ていた諏訪之瀬島は期待を裏切らない姿をしていた。
それから約1時間後、悪石島に近づいたことを知らせる船内アナウンスがあり
ゴソゴソと起きだし甲板へ向かう。
そこで見えた悪石島は名前ほどインパクトのある姿ではなかった。
この悪石島は仮面神ボゼの棲む神々の島だ。
それに何といってもこの島にはいい温泉があるらしいから楽しみだ。
次は小宝島だ。
悪石島と小宝島の距離は約35キロメートルあって
7島の中で一番区間が長く所要時間1時間20分ほどだ。
船内アナウンスが流れると僕は毛布を撥ね上げ甲板へ上がった。
小宝島はなんと小さな島だろう。
そして今まで見てきた島とは色合いが違い、
エメラルドグリ−ンの海、
珊瑚礁に囲まれたこの島はまさに南海の孤島だ。
ここは日本の島の中で一番最後まではしけ作業が行われていた所だ。
今は珊瑚礁の海に一直線に突き出たコンクリート製の波止場が出来ている。
この波止場は波の影響を受けやすく、
海がシケると船が近づけず度々パスされる。
波止場の上で船の着岸を待つ島民の中で
一際目立つ、小麦色の肌、潮で焼けた長い髪の妙齢のご婦人がいる。
僕の目は彼女に釘付けになった。
彼女は船の中に知り合いでもいるのか船に向かって手を振っている。
船が着岸して乗客が降りきると彼女はタラップを駆け上った。
しばらくすると書類が入っているような
大きめの封筒を胸に抱えてタラップを降りていった。
そのあと船から降ろされたコンテナの中の荷物出しを
おばちゃんたちに混ざってやっている。
ときおり真っ白い歯を目一杯見せた笑顔が素敵だ。
「みしま」は僕の名残惜しい気持ちをよそに宝島へ向かった。
目と鼻の先にある宝島へは30分くらいで着いてしまう。
船内に戻らず甲板のベンチに座り潮風に吹かれる。
今日の東シナ海の風はたそがれるには心地よい。
宝島は温泉が無いのが残念だが、鍾乳洞はあるし
砂丘はあるしハブもいる。
この島はなんといっても宝島伝説だ。
パンフレットにそのことが載っているのでそのまま書いてみる。
「宝島伝説」
宝島には、海賊の住かにふさわしい地下の宮殿ありと古記録にある。
その地下の宮殿とは、島の最高峰イマキラ岳の背後にある鍾乳洞である。
元禄時代の1696年から1699年の間、
東シナ海の沿岸を荒らし回った
海賊キャプテンキッドが3億ドルの財宝を
この地下の宮殿に隠しているとの
トピックスを昭和12年アメリカの新聞が宣伝した。
世界中の探検家が宝の島に乗り込んだことはいうまでもない。
イギリスの小説家スティーブンソンが書いた『宝島」もこの島と関係があるようだ。
日本の南の忘れられたような島々の中に
世界的に有名になった島があるなんて知らなかった。
宝島の波止場は割りと大きく人もたくさん集まっていて賑やかだ。
波止場の背後にあるコンクリートで固められた壁面には
竜宮城をイメージした絵を制作中だ。
カラフルな色合いは照りつける強い日差しにぴったりフィットしている。
宝島まで来ると船の中の自動販売機の
飲み物がほとんど売切れになる。
どの島に着いても島の人たちが船に上がって来て
自動販売機の牛乳やジュースをたくさん買っていくからである。
ここから折り返し上り便となり
鹿児島へと向かうのだがとくに長く休憩するわけでもなく
他の島と同じように出港する。
僕はガラガラの船内に戻り横になって目を瞑る。
なかなか眠りに付けず、船が小宝島を入出港するのがわかった。
しばらくすると少し離れた所から割と高めの若い女性の声が聞こえた。
もしやと思い上半身を起こして
何げなく見てみると2等室の奥の方で
あの女性がおばあちゃんと話しをしていた。
胸が高鳴る。
けど、そのうち彼女は毛布に包まって眠ってしまった。
僕も横になって毛布をかぶり目を瞑る。
いつのまにか眠ってしまい、目が覚めるとそっと彼女の方を見る。
彼女はまだ眠っていた。
そんなことを何度か繰り返すがいつも彼女は眠ったままだ。
平島に近づいた知らせのアナウンスが流れ
乗船口から平島の波止場の方を見ると、
下り便の時より少なくなった出迎えの人たちの中に、
僕の荷物がぽつんと置かれていた。
船が着岸すると、僕が平島に上陸した時に軽トラで集落まで乗せてくれた人が、
「な〜んだ、自分の荷物か? 何やってんだあ」
と笑いながら手渡してくれた。
船の上ではろくに食事を摂ってなかったので腹ぺコだ。
ご飯を炊いてボンカレーをかけて食べる。
今回の旅はひたすら淋しいメニュー。
ふりかけだけ、缶詰一つ、ボンカレーだけとか。
ビタミンCだけは錠剤を持ってきた。
一休みしてひと風呂浴びに温泉へ向かう。
お巡りさんに10分くらい歩いた所にあると教えてもらっていたが
暗くてどれが温泉だかわからない。
民家の前から軽トラに乗ろうとしていたおばちゃんがいたので
温泉の場所を尋ねると荷台にに乗せて連れて行ってくれた。
そこは温泉のために防波堤が海へコの字に出っ張っていて
その中に温泉小屋が建てられている。
階段を降りると左が男湯だ。
隙間だらけの木の引き戸を開けると脱衣所になっていて
その奥にコンクリートで出来た2メートル角の
正方形の浴槽があり回りの三方が洗い場になっている。
浴槽の湯はちょうど入れ替えたばかりなのか
まだ膝ぐらいしか溜まっていなかった。
湯はかなり熱く透明だが口之島のセランマ温泉より硫黄の匂いがある。
この温泉は24時間入れて無料。
しかも集落から歩いて来れる距離にある。
身体を洗い、少ない湯に浸かっているとおじさんが一人入ってきた。
おじさんの話しによるとこの温泉は西温泉と呼ばれ、
もう少し歩くと同じくらいの大きさの東温泉があり、そこも24時間無料だそうだ。
もうひとつ波止場に戻った方に天泊温泉があるが、現在、吉留建設が専用に使っている。
風呂から上がり外へ出ると、
雲が出始め風が強くなってきた。
どうやら天気が崩れそうだ。
中之島 西温泉
トカラ列島 旅行記 野宿しながら約一ヶ月かけて島々を巡った旅の話です!
陽が昇ると暑くてテントの中には居られない。
外に出てテントが作り出す日陰でゴロゴロしていると鬼のようにガジャブが集まりだした。
今日は風が弱いのだ。
思わず
「疲れるなあ〜」
と弱音を吐いてしまう。
走って逃げてもどこまでも追いかけてくる。
少しでも風がある所と思い防波堤に上がるがガジャブはやって来る。
最初はブルゾンを着ていたが暑さに耐えられずTシャツ1枚になる。
両腕は諦めよう。
こうなったら刺されて刺されて免疫を作ってやる。
なんだか眠い。
ボーッとしているうちに首筋、両腕、両手の甲をしこたま刺されて痒い痒い!
明日の夜明け前に下り便の「としま」が入ってくるので
集落にある駐在員さんの家に船のキップを買いに行くが誰もいない。
時間つぶしに郵便局へ行って手紙を書くことにする。
ここはエアコンがばっちり効いて極楽だ。
できれば長いすに寝転がって昼寝がしたい。
駐在員さんは昼間、牧場に出ていて暗くならないと
家には戻らないとケンゴのお母さんが教えてくれた。
まだまだ時間があるので島の北側を海岸沿いに港のある西之浜から
島の最北端のセリイ岬を経由して前之浜まで歩くことにする。
口之島は周囲約13キロメートルで中之島周囲約28キロメートル、
諏訪之瀬島周囲約24,5キロメートルに次ぐ3番目に大きな島だ。
西之浜から平瀬という所までは所々砂浜があり、そこには牛が集まっている。
この辺の牛は野生牛ではない。
僕が近づいていくと牛たちは逃げずにじっと見てる。
牧場の牛といっても闘牛みたいなりっぱな
角を持っているのでちょっと怖い。
牛の目を見ながら通り過ぎるまでは良かったが
背中を見せると牛たちは牛歩戦術でにじり寄って来る。
なんかヤバイ雰囲気なので波打ち際の岩の上を
歩くがあしを滑らして海に落ち、右ひじを擦りむく。
何をやってるんだおいらは、、、。
びしょ濡れのジーンズは重くて歩きづらいので大きな岩の上で裸になって海水をしぼる。
残り少なくなったガラムを一服きめる。
風が強く、貴重なガラムはみるみるうちに短くなっていく。
平瀬を過ぎるとあとはずっと岩場が続く。
この辺はトカラヤギが多い。
最北端のセリイ岬から前之浜までには巨大な流木が何本も打ち上げられていて、
その巨木の多くは岩の上で微妙なバランスで横たわりオブジェしている。
漂流物は圧倒的に発泡スチロールの破片が多い。
あとは中国語が書いてあるペットボトルが目につく。
明日の「としま」の航海の次は26日と8日間もあるので
一番楽しみな諏訪之瀬島に行くことにする。
口之島〜諏訪之瀬島間 3070円
防波堤に寝ころび双眼鏡で星を見ているとはまってしまう。
肉眼で見る星と星の隙間は双眼鏡で覗くと
小さな星たちによってぎっしりと埋め尽くされてしまう。
僕は双眼鏡の中に入り込んで星の世界へ吸い込まれてゆく。
「おーい!」
誰かの呼ぶ声で現実の世界に引き戻される。
いつもの3人組がやって来た。
彼らとは今夜でお別れだ。
酒を飲み明かし、またの再会を約束する。
古道具 古賀
東京都小金井市関野町2−3−3
0120ー387−056
042−387−0567
furudougukoga@yahoo.co.jp
東京都公安委員会 第308899403942
当店は桜の名所、小金井公園の近く、
五日市街道沿いで10数年、地道に商っています。
定休日・月曜日・不定休有
防波堤に置かれた大きな消波ブロックの隙間にテントを張った
薄暗くなった午後6時50分、中之島着。
ついに彼女は眠ったままだった。
僕は後ろ髪を引かれつつタラップを降りた。
波止場には人の良さそうな警察官がいたので
なるべくこの近くでテントを張る場所がないか尋ねる。
十島村で警察官はこの人だけだ。
僕は貴重な人に話し掛けている。
お巡りさんは
「とりあえずここがいいんじゃないかなあ、
山の方へ行くと虫に刺されるよ」と言った。
でもここは波が上がってこないか心配だ。
このことを聞くと台風でも来ないかぎり大丈夫だそうだ。
本当かなあ?
波止場の先のほうに大きな消波ブロックが置いてある。
その隙間にテントを張ることにする。
「何故か吐喝喇列島日帰り
14時間クルージング」